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犬猫の腫瘍 上皮小体

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上皮小体の腫瘍 Tumors of the Parathyroid Gland

正常な上皮小体の構造

上皮小体は内胚葉由来の嚢胞状突起として、第3、第4咽頭嚢から発生し、通常4対で、まれに5対の場合もあります。犬猫では第4上皮小体は甲状腺の内部あるいは内側に存在し、組織学的には線維性結合組織の被膜で覆われており、実質は毛細血管に富み、主細胞と呼ばれる単一な細胞が集塊状あるいは索状に配列しています。主細胞は立方形あるいは多角形で、好酸性に染まる細胞質を有しています。上皮小体はパラソルモン(PTH)を合成分泌し、骨と腎臓を主な標的器官として血液中のCa濃度を調整します。

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(上皮小体)主細胞腺腫 Chief cell (parathyroid) adenoma

臨床情報
上皮小体に発生する腫瘍は、主細胞の腫瘍性増殖病変からなり、腺腫と腺癌に分けられます。腺腫および腺癌ともに老齢の犬や猫で報告されており、通常、機能性腫瘍としてPTHを合成分泌し、原発性上皮小体機能亢進症を引き起こします。機能性腫瘍では、血中Caイオンの濃度による通常の制御メカニズムが失われ、持続性の高Ca血症と、結石の形成を伴う尿中カルシウムおよびリン排泄の増加がみられます。高Ca血症は、食欲不振、嘔吐、便秘、うつ病、多尿症、多飲症、および神経筋興奮性の低下による全身性筋力低下を引き起こします。過剰なPTHにより尿細管におけるリンの再吸収が阻害されるため、血中P濃度は低くなります。機能性腫瘍の場合、残存する正常な上皮小体の主細胞は、高Ca血症によるフィードバック機構により機能が抑制されて萎縮に至ります。
主細胞腺腫は通常、単一の上皮小体の腫大をもたらします。主に単発性で甲状腺に近接する頚部やごく稀に心底部付近に発生します。腫瘍組織は緩徐に成長し、しばしば隣接する甲状腺を圧迫します。腫瘍組織は隣接する甲状腺からはっきりと境界が定められ、被包化されます。多発性主細胞過形成は、犬や猫の原発性上皮小体機能亢進症の原因でもあり、上皮小体機能亢進症を引き起こす単一の腺腫と区別する必要があります。

細胞診
主細胞腺腫では、上皮様細胞が孤在性あるいは大小の集塊を形成しながらに採取されます。これらの細胞は裸核化して見られるものも多く観察され、均一な形態を示し類円形核と淡好塩基性に染色される中等量の細胞質を有しています。形態学的特徴に乏しい細胞形態ですが、いわゆる神経内分泌腫瘍の細胞形態を示します。細胞診では、主細胞腺腫と腺癌の詳細な鑑別はできません。

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病理組織
主細胞腺腫では、腫瘍組織は線維性被膜で明瞭に被包化されています。腫瘍細胞は密に増殖し、毛細血管に富む繊細な結合組織によって区画される胞巣状構造を示します。また腫瘍細胞は乳頭状構造や腺腔構造を形成する場合があります。腫瘍細胞は立方形から多角形で、弱好酸性の細胞質を有する腫瘍細胞のほかに、好酸性細胞や水様明細胞なども種々の割合で含まれることがあり、稀に移行型を示す細胞も認められます。腫瘍細胞は正常な主細胞と類似した形態を示し、核分裂像はほとんど認められません。

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予後・治療法

上皮小体腺腫は通常、成長が遅く、隣接する甲状腺を圧迫します。それらは十分に被包化されており、問題なく外科的に切除することができます。機能性上皮小体腺腫の外科切除後の低Ca血症は、上皮小体摘出術後の犬の約3分の1程度で発生します。低カルシウム血症は、術前の高Ca血症の重症度と残存する上皮小体萎縮の重症度に依存する場合があり、手術前の血中Ca濃度が高ければ高いほど、術後の低Ca血症になる可能性が高くなります。

(上皮小体)主細胞腺癌 Chief cell (parathyroid) carcinoma

臨床情報
主細胞腺癌は、主細胞腺腫に比べて大きく成長し、被膜や甲状腺、頸部骨格筋などの隣接する組織に浸潤性に増殖する場合がありますが、腺腫よりも発生は稀です。高齢の犬や猫で発生が報告されています。

細胞診
主細胞腺腫と類似の所見を示します。細胞診では、主細胞腺腫と腺癌の詳細な鑑別はできません。

病理組織
主細胞腺癌では、腫瘍組織の被膜への浸潤や血管侵襲、頸部周囲組織への侵襲性、転移などの有無で腺腫と区別されます。腫瘍組織はシート状充実性に配列する腫瘍細胞から構成され、一部で好酸性漿液を含む卵胞様構造を形成する領域も見られます。腫瘍細胞はより多形性を示し、核分裂像も多く観察されます。免疫染色において、腫瘍細胞はPTH、CytokeratinとともにChromogranin AやSynaptophysin、PGP9.5、Neurofilamentに陽性を示します。

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写真はTumors in Domestic Animals, Fifth Editionから抜粋

予後・治療法
主細胞腺癌は腺腫よりも大きく、被膜および隣接する構造(甲状腺、上皮小体および頸部筋肉など)に浸潤し、所属リンパ節に転移する可能性があり、まれに肺に転移する場合があります。

無断での転用/転載は禁止します。
 

参考文献
・World Health Organization International Histological Classification of Tumors of Domestic Animals, Washington, DC, Armed Forces Institute of Pathology, 1998
・Tumor in domestic animals, 4th ed, Ames, Iowa, Iowa State Press, 2002.
・Tumor in domestic animals, 5th ed, John Wiley & Sons, inc, 2017.
・Withrow & MacEwen’s Small Animal Clinical Oncology, Withrow J.S, et al: Elsevier; six ed, Saunders-Elsevier, 2019
・Cowell RL, Valenciano AC. Cowell and Tyler’s Diagnostic Cytology and Hematology of the Dog and Cat. 5th ed. St. Louis. Mosby. 2019.
・Raskin RE, Meyer DJ. Atlas of Canine and Feline Cytology, 2nd ed. W.B. Saunders Philadelphia. 2009.

* 本腫瘍マニュアルは、主に上記の文献を参考にしていますが、IDEXXの病理診断医が日々の診断を行う際に用いるグレード評価などは他の文献等を参考にしています。