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犬猫の腫瘍 皮膚:メラノサイト腫瘍

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正常なメラノサイト

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メラノサイトーマ(皮膚メラノーマ、良性メラノーマ)
Melanocytoma (dermal melanoma, benign melanoma)
臨床情報
メラニン色素産生細胞(メラノサイト)由来の良性腫瘍です。メラノサイトは表皮、真皮、毛包外根鞘などの皮膚付属器に分布していて、それらから発生します。犬ではよく発生がありますが、猫ではあまり一般的ではありません。発症年齢のピークは犬で5~11歳齢、猫で4~13歳齢です。好発犬種はビズラ、ミニチュア・シュナウザー、スタンダード・シュナウザー、チェサピーク・ベイ・レトリーバー、ジャイアント・シュナウザー、ドーベルマン・ピンシャー、エアデール・テリア、アイリッシュ・セッター、ブリタニー・スパニエル、ゴールデン・レトリーバー、シャーペイ、ロットワイラー、ケアン・テリアで、スコティッシュ・テリアやボストン・テリア、チャウ・チャウ、ボクサーも発生率が高いと言われています(海外の文献なので、日本とは異なる可能性があります)。猫ではドメスティック・ショートヘア・キャットです。諸説あるものの、性別による発生の差はないとされています。犬では体幹や頭部、特に眼瞼やマズルに、猫では頭部、特に耳介に発生しやすいと言われています。メラノサイトーマは皮膚での存在期間によって見た目が異なります。小さく色のついた斑状から丘疹状、ドーム状、乳頭状、局面状、有茎性の結節、時には直径5cmを超える大型腫瘤と様々です。色はメラニン色素量によって異なり、黒色~様々な濃さの茶色、灰色、赤色と多様です。単一の病変内でも色素沈着にばらつきが見られることもあります。病変表面の表皮は損傷のないことが多く、しばしば無毛となります。色素沈着過剰も起こります。真皮で病巣が形成されることがほとんどですが、大きな腫瘤の場合には、皮下組織へ病変が広がります。犬では、メラノサイト腫瘍は発生部位によって腫瘍挙動が異なることが知られています。有毛部皮膚から発生するものの多くは良性で、眼瞼を除いた粘膜皮膚境界部から発生するものは悪性のことが多いと言われています。


細胞診
メラノサイト腫瘍は悪性良性に関わらず、細胞診では多様な形態を呈して観察されます。非上皮性腫瘍であることから紡錘形細胞として観察されると考えられがちですが、実際には上皮細胞様に集塊状に観察されたり、また時に独立円形細胞にも似た形態を呈することもあります(あたかも形質細胞腫のような形態として観察されることもあります)。そのためメラノサイト腫瘍は細胞診のみによる由来の特定が時に困難となる腫瘍の1つです。一般的に良く分化したメラニン細胞はRomanowsky染色(ライトギムザ染色など)で黒緑色に染色される細胞質内顆粒を豊富に含んでみられます(写真a)。一方、分化傾向に乏しいものでは、細胞質内顆粒はわずかに観察されるのみであったり、全く顆粒が認められないこともあります(無顆粒性)。メラノサイト腫瘍の悪性良性の判定は細胞形態だけで評価されるものではなく、腫瘍細胞の浸潤程度や解剖学的な発生部位なども重要な指標となります。メラノサイトーマ(良性のメラノサイト腫瘍)では悪性のものに比べ、観察されるメラニン細胞の核は小型で、核や細胞の大小不同などの異型性所見には乏しく、均一な形態を呈する細胞群として観察されるとされていますが、上記の理由から細胞診のみによる悪性良性の評価は困難です。
細胞診標本中に良く分化したメラニン細胞が少量観察された場合、また細胞質内に黒緑色の色素/顆粒を有する細胞が観察された場合に注意する点は以下の通りです。
・上皮性腫瘍(毛芽腫など)では、病変部皮膚に存在する正常なメラニン細胞が針生検によって採取されることがあります(正常な皮膚の病理組織像を参照のこと)
・基底細胞の細胞質内色素:表皮基底細胞では細胞質内にメラニン色素を含有することがあります
・メラノファージ:メラニン色素を貪食したマクロファージ
・ヘモジデリン貪食マクロファージ


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写真a:メラノサイトーマで観察される良く分化したメラニン細胞。
細胞質内顆粒の量が豊富で、写真に示すように1つ1つの細胞形態を観察できないこともしばしば経験されます。


病理組織
メラノサイト腫瘍の良悪の判定は組織学的検査で行いますが、重度に色素沈着を起こしたものでは、細胞や核の形態学的検査が困難となり、メラニン色素の脱色の作業が必要になります。腫瘍細胞の細胞形態は大小の紡錘形のもの、上皮様のもの、多角形のもの、類円形のものと多様性があります。腫瘍細胞のメラニン顆粒含有量も様々で、核が不明瞭化するほど多量のこともありますが、完全にメラニン顆粒を欠くこともあります。単一の病変内でも細胞形態やメラニン顆粒含有量にばらつきが見られることは一般的です。細胞異型や核異型は目立たず、核分裂像はほとんど認められません。腫瘍細胞は表皮内で増殖することがあり、表皮基底側や毛包の外根鞘内で胞巣を形成します。真皮での増殖形態は、神経様の分化を示す場合や豊富な膠原線維性間質に紡錐形細胞が散在、類円形~上皮様細胞の充実シート状増殖、高度にメラニン沈着を伴うなど、極めて多様です。病巣表面の表皮と関連のない、真の真皮メラノサイトーマも存在しますが、腫瘍の成長に伴って潰瘍化してしまうと見極めは困難となってしまします。稀なタイプとして、メラニン顆粒に乏しい淡明、顆粒状~泡沫状の大型円形~上皮様の細胞質を持つ、風船様細胞メラノサイトーマ(balloon cell melanocytoma)があります。ただし、良悪の鑑別は困難なこともあります。犬では核分裂像が高倍率10視野中3個以上だと悪性とされますが、猫では当てはまりません。病巣表面の表皮内での孤在性~巣状の腫瘍細胞の存在や、真皮・皮下組織への浸潤性を悪性の指標とする記載もあります。脈管侵襲の存在は一番の悪性の指標です。

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予後・治療法
大部分の良性のメラノサイトーマは緩徐に成長しますが、ヒトと同様に良性のメラノサイトーマから稀に悪性転化を起こす報告もあります。ほとんどの場合、完全切除により治癒が期待できます。ただし、良性と判断されたものでも転移を起こすことがあるので、形態学的に予測できない挙動があることを考慮して、切除部位と領域リンパ節のモニターは継続します。


メラノアカントーマ(メラノサイトーマ‐アカントーマ)
Melanoacanthoma (melanocytoma-acanthoma)
臨床情報
メラニン色素産生細胞(メラノサイト)と上皮性細胞の2つの成分による混合腫瘍です。稀な腫瘍です。境界明瞭で被包されていない皮膚結節として認められます。
 
細胞診
メラノサイトが単一の細胞群として採取された場合、細胞診によって本疾患と他のメラノサイト腫瘍(メラノサイトーマやメラノーマ)とを明確に区別することはできません。
 
病理組織
毛包上皮由来腫瘍細胞が索状~胞巣状、嚢胞状に増殖し、上皮増殖巣内や膠原線維性間質には胞巣状~集塊状のメラノサイト由来腫瘍細胞が豊富に認められます。上皮成分の作る嚢胞内には不定形~層状の角化物を容れています。時にメラノサイト成分が悪性転化を起こし、悪性黒色腫(メラノーマ)となることがあります。

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予後・治療法
完全切除により治癒します。ただし、メラノサイト成分が悪性転化を起こし、悪性黒色腫(メラノーマ)となる場合もあり、またメラノサイト腫瘍は良性と判断されたものでも転移を起こすことがあるので、形態学的に予測できない挙動があることを考慮して、切除部位と領域リンパ節のモニターは継続します。

悪性黒色腫(悪性メラノーマ)Malignant melanoma
臨床情報
メラニン色素産生細胞(メラノサイト)由来の悪性腫瘍です。犬で発生の多い腫瘍ですが、その他の動物種ではあまり多くありません。犬の有毛部皮膚のメラノサイト腫瘍は、悪性よりも良性の方が多く発生します。犬は3~15歳齢が初発で、9~13歳齢に発症のピークがあります。好発犬種はスコッチ・テリア、スタンダード・シュナウザー、ミニチュア・シュナウザー、アイリッシュ・セッター、ゴールデン・レトリーバー、ドーベルマン・ピンシャーです(海外の文献なので、日本とは異なる可能性があります)。猫は稀ですが、主に高齢で見られます。犬猫とも雌雄差は知られていません。犬の悪性黒色腫の多くは口腔内や口唇の粘膜-皮膚境界部に発生しますが、約10%は有毛部皮膚で、頭部や陰嚢に発生しやすいと言われています。猫の悪性黒色腫の大部分は皮膚に発生し、頭部(口唇、鼻部)と背部が多いとされています。犬では指/趾の腫瘍のうち、爪床悪性黒色腫は比較的多い腫瘍です。メラニン色素量や大きさにはばらつきがあり、肉眼的に良悪の鑑別はできません。皮下組織や筋膜にまで深く浸潤することがあります。爪床悪性黒色腫では末節骨の融解を起こすことがありますが、画像検査のみでは爪床扁平上皮癌などの他の腫瘍との鑑別は困難です。
 
細胞診

細胞診のみでメラノサイト腫瘍の悪性良性を判別することはできません(メラノサイトーマの項を参照のこと)。腫瘍細胞は紡錘形細胞としてだけでなく、上皮細胞様の形態や独立円形細胞にも似た形態を呈してみられることがあります。悪性黒色腫で観察される腫瘍細胞内の細胞質内顆粒の量は様々ですが(写真a)、分化傾向に乏しいほど細胞質内顆粒の量は少なく、時に無顆粒性であることもあるため(写真b)、他の非上皮性悪性腫瘍(肉腫)との判別が困難となります。また悪性黒色腫で観察されるメラニン細胞の核は幼若で、核の大小不同やNC比のばらつき、また明瞭な核小体などの異型性所見が強く観察されることが多くなります(写真a,b)。
 

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写真a:
悪性黒色腫、細胞質内顆粒の量は腫瘍細胞によって様々。核の大小不同やNC比のばらつきなどの異型性所見が観察されます。
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写真b:
悪性黒色腫、細胞塊として観察される部位も認められます(上皮細胞様に見える例)。個々の細胞は紡錘形ですが、細胞質内顆粒は明瞭ではなく、細胞形態のみでは他の非上皮性悪性腫瘍との鑑別が困難となります。
 

 
病理組織
悪性黒色腫では細胞型は予後の指標にはなりませんが、猫では上皮様の細胞型はより悪性挙動を示すとする記載もあります。腫瘍細胞は紡錘形~上皮様、風船様を含めた様々な細胞形態を取り、細胞や核の多形性の程度も様々です。錯綜配列や渦状、胞巣状配列など様々な増殖形態を取り、様々な細胞タイプが混合することもあります。上皮内での腫瘍細胞の増殖を見ることがあり、特に爪床に発生するタイプで認められます。良性より悪性で潰瘍が起きやすいです。良性のメラノサイトーマよりも核分裂像は増加し(高倍率10視野中3個より多い)、核小体も明瞭化や大型化し、核の異型性も増します。皮膚や爪床のメラノーマでは、時に化生性の骨や軟骨が形成されます。
 

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予後・治療法
比較的高分化で初期段階のものは完全切除で良好な予後が得られることもありますが、一般的には急速に成長・進行し、予後の悪い腫瘍です。皮下組織の深部側へ浸潤しますが、表皮に沿って水平方向へも広がることがあり、外科的切除マージンには注意しなければなりません。転移を起こしやすく、リンパ行性に領域リンパ節や肺へ転移します。脳や心臓、脾臓といった全身性の転移はあまり一般的ではありません。治療は外科的切除が一般的で、放射線療法の併用や化学療法、免疫療法などがあります。
発生部位や予後、免疫染色に関しては病理症例集17でより詳細に説明していますので、参考にしてください。
 

メラノサイト過形成(黒子,単純黒子)
Melanocytic hyperplasia (lentigo, lentigo simplex)
臨床情報
表皮の主に基底層におけるメラニン色素産生細胞(メラノサイト)の非腫瘍性の増殖性病変です。犬と猫で記載があり、犬では乳頭、猫では口唇、眼瞼縁、耳介で多く発生します。オレンジ、クリーム、シルバーの毛色の猫で特に多いそうです。
 
細胞診
メラノサイトが単一の細胞群として採取された場合、細胞診によって本疾患と他のメラノサイト腫瘍(メラノサイトーマやメラノーマ)とを明確に区別することはできません。
 
病理組織
表皮基底層におけるメラノサイト数の増加とともに、表皮も過形成化します。メラノサイトは正常で、異型性はありません。近くの角化細胞ではメラニン色素沈着が亢進し、直下の真皮表層ではメラノファージ(メラニン色素貪食マクロファージ)も認められます。
 

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予後・治療法
非腫瘍性病変ですので、問題はありません。

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