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犬猫の腫瘍 皮膚:犬の軟部組織肉腫

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臨床情報および一般的概念
軟部組織肉腫(Soft Tissue Sarcoma: STS)は軟部組織に発生する間葉系由来の腫瘍の総称で、体の様々な部位に発生しますが、皮膚と皮下組織に最も多くみられ、犬の皮膚および皮下腫瘍の8~15%を占めます。好発年齢は中齢~高齢で、中~大型の犬に多いと言われます。腫瘍は局所膨張性に成長し筋膜の間に形成されます。いくつかの報告で、再発率は低~中等度(7~30%)、再発期間は比較的長く(中央値637日)、転移率は低いとされています(最大17%)1)2)
 
犬のSTSは一般的にいくつかの種類の腫瘍に特定した狭義の意味で用いられます。この中に含まれる腫瘍の種類は文献などによりばらつきがありますが、これに含まれる腫瘍は一般的に、悪性末梢神経鞘腫、血管外膜細胞腫(血管周皮腫)、線維肉腫、脂肪肉腫、粘液肉腫、多形肉腫(悪性線維性組織球腫)、悪性間葉腫、未分化肉腫などです1)。これらはルーチンの組織検査や免疫組織化学検査で確実に分類することが難しいという背景があり、STSの基本概念としては「軟部組織に発生する組織学的特徴生物学的挙動が類似する異なるタイプの腫瘍を説明づける総称」ということになります。一方、臨床挙動が異なる腫瘍や組織形態学的に特異性のある軟部組織の腫瘍はこのグループには含まれません(表1)。
 

狭義のSTS
悪性末梢神経鞘腫
   血管外膜細胞腫(血管周皮腫)
   線維肉腫
   脂肪肉腫
   粘液肉腫
   多形肉腫(悪性線維性組織球腫)
   悪性間葉腫
   未分化肉腫
左に含まれないSTS
平滑筋肉腫
横紋筋肉腫
リンパ管肉腫
血管肉腫
滑膜肉腫
組織球肉腫
骨外性骨肉腫
軟骨肉腫
など

(表1)

なお、動物のWHO分類ではSTSという腫瘍分類はなく、皮膚および軟部組織腫瘍の間葉系腫瘍(1.線維組織性腫瘍、2.脂肪組織性腫瘍、3.平滑筋性腫瘍、4. 横紋筋性腫瘍、5. 脈管組織性腫瘍、6.末梢神経性腫瘍、7.滑膜性腫瘍、8.中皮性腫瘍、9.肥満細胞腫性腫瘍、10.組織球性腫瘍、11.その他の腫瘍、12.未分類の腫瘍)の中にSTSに含まれる腫瘍がそれぞれに分類されています。これは、WHOの分類が限られた一般的なルーチン検査の手法ではなく、学術的に可能な検索に基づいて分類されているためです。

肉眼写真(腫瘍の割面)
image001
病変部は塊状で、あたかも肉眼的には境界明瞭な腫瘤であるようにみえますが、境界部は偽被膜で形成されています。

細胞診
STSではさまざまな細胞診像がみられますが、通常は紡錘形ないし不定形の境界不明瞭な淡好塩基性~好塩基性細胞質を有する非上皮性細胞が少数~多数認められます。細胞が密に集合している部分では上皮性細胞のようにみえることもあります。核クロマチン結節には乏しく、しばしば1~2個程度の核小体が認められます。異型性は軽度~重度までさまざまです。線維芽細胞は反応性であっても比較的強い異型性を示すことがあるため、細胞診のみで肉芽組織とSTSを明確に区別することは困難です。紡錘形ないし不定形細胞が多数出現しており、他の炎症性細胞(好中球やマクロファージなど)の出現に乏しい場合にはその疑いが強まります。
(鑑別診断:その他の肉腫、肉芽組織形成を伴う慢性炎症)
 
image002
 
犬の体表腫瘤の針生検標本。紡錘形ないし不定形の非上皮性細胞が多数認められます。細胞質は淡好塩基性、細胞境界は不明瞭であり、核は核クロマチン結節に乏しく、核小体を1つ持つものが多くみられます。核の大小不同やN/C比のばらつきなどが認められます。異型性としてはそれほど強いものではありませんが、炎症性細胞を伴わずに非上皮性細胞が単一の細胞群として採取されることは異常であり、軟部組織肉腫が疑われます。
病理組織
STSは紡錘形細胞で構成される腫瘍群ですが、それらの細胞は、花むしろ状、渦巻き状、束状、そして鹿の角状など、実に多彩でユニークな組織像を取ります。細胞間には様々な量の線維性基質を持ち、時に、粘液様基質が見られることもあります。核の異型性や多形性は悪性度に比例し、悪性度が高くなると多核細胞も多く出現するようになります。また、スリット状の空隙が頻繁に形成され透明な漿液を含むこともあります。
 

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花むしろ状のパターン
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渦巻き状のパターン

 

STSの組織グレード(悪性度)
STSの組織グレードは、細胞の分化度、核分裂指数そして壊死の範囲をスコア化した評価法が用いられています(表2)1)。悪性度の高い腫瘍は細胞異型性が高く、核分裂像も多く観察されます。組織学的グレード(Ⅰ=低悪性度、Ⅱ=中間悪性度、Ⅲ=高悪性度)は再発率と関係すると考えられており、ある報告では、狭小な切除マージン(close margin:論文中では、腫瘍と辺縁の間が1㎜以下もしくは偽被膜での切除と定義)では、グレードが高くなると再発率が高くなったという結果でした3)。また、他の報告では、四肢に発生した低グレードSTSにおいて切除方法と再発率を検討し、狭小マージンで切除(論文中では周囲組織3mm以下)されても再発率は低かった(10.8%)という結果が得られています4)。

~犬の軟部組織肉腫の組織グレード~
1.分化度
 1点: 正常な成熟した間葉組織に類似する(高分化線維肉腫、高分化末梢神経鞘腫など)
 2点: 組織学的な分類は可能であるが、分化は低い(低分化脂肪肉腫、低分化血管外膜細胞腫など)
 3点: 未分化肉腫、分類不能な肉腫
2.核分裂指数 (x400で10視野) 
 1点: 0~9
 2点: 10~19
 3点: >19
3.腫瘍壊死
 1点: 壊死なし
 2点: 50%以上
 3点: 50%以下

トータルスコア (1+2+3)
 グレード1(低悪性度):  合計3点以下
 グレード2(中間悪性度): 合計4~5点
 グレード3(高悪性度):  合計6点以上

(表2)

予後・治療法
現在、予後因子としては上術の組織グレード(悪性度)が最も重要と考えられています。グレードごとの転移率は、グレード1または2で15%、グレード3で41%であったとの報告もあります5)。また、上記のグレードの評価には含まれていない腫瘍の大きさや深さと予後の予測因子に関する報告もあり、腫瘍の大きさが5cm以上のものは、5cm以下の腫瘍に比べて再発の危険性が6倍であることや、腫瘍が筋層へ浸潤している場合は、皮下組織に留まっている腫瘍に比べて再発の危険性が8倍高いということも言われています6)。STSの治療の第一選択は外科切除になりますが、グレードが高い腫瘍で切除マージンが不十分であった場合には、拡大切除、化学療法そして放射線治療といった追加治療が考慮されます。

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参考文献
1.Dennis MM, McSporran KD, Bacon NJ, et al. Prognostic factors for cutaneous and subcutaneous soft tissue sarcomas in dogs. Vet Pathol. 2011 Jan;48(1):73-84.
2.Bray JP, Polton GA, McSporran KD, et al. Canine soft tissue sarcoma managed in first opinion practice: outcome in 350 cases. Vet Surg. 2014 Oct;43(7):774-82.
3.McSporran KD. Histologic grade predicts recurrence for marginally excised canine subcutaneous soft tissue sarcomas. Vet Pathol. 2009 Sep;46(5):928-33.
4.Stefanello D, Morello E, Roccabianca P, et al. Marginal excision of low-grade spindle cell sarcoma of canine extremities: 35 dogs (1996-2006). Vet Surg. 2008 Jul;37(5):461-5.
5.Kuntz CA, Dernell WS, Powers BE, Devitt C, et al. Prognostic factors for surgical treatment of soft-tissue sarcomas in dogs: 75 cases (1986-1996). J Am Vet Med Assoc. 1997 Nov 1;211(9):1147-51.
6.Avallone G, Boracchi P, Stefanello D, et al. Canine perivascular wall tumors: high prognostic impact of site, depth, and completeness of margins. Vet Pathol. 2014 Jul;51(4):713-21.