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犬猫の腫瘍 肝臓

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正常な肝臓

細胞診
正常肝臓では、多角形からやや楕円形の肝細胞がシート状、塊状あるいは単独で採取されます。肝細胞は中心性の円形核と、淡い粒状のクロマチンを有しており明瞭な1つの核小体が認められます。核は、正常でも二核化することがあります。細胞質は豊富で、淡青色とピンク色の粒状に観察されます。また、細胞質内にリポフスチン色素顆粒を含有することがあります。
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正常組織
小葉間結合組織(グリソン鞘)で区画された肝小葉の集簇で構成されています。小葉の中心には中心静脈が走り、血液は周辺部から中心静脈に向かって流れます。一方、肝細胞で作られた胆汁は、肝細胞間にある毛細胆管内を小葉中心部から周辺部に向かって流れています。
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結節性過形成/結節性肝細胞過形成  Nodular hyperplasia/Nodular hepatocellular hyperplasia

結節性過形成は原因不明の病変で、成犬で頻繁に見られます。他の動物では稀です。犬種や性別による傾向はみられません。6-8歳の犬で観察され始め、14歳で70-100%の犬が結節性過形成を有していると報告されています。結節性過形成は臨床症状を起こさず、肝臓機能にもほとんど悪影響を与えないことから、偶発的に発見されることが多い病変です。
肉眼的には、結節性過形成の多くは3㎝以下で1個のことも複数のこともあります。正常な肝臓組織と同様の色を呈していることが多いですが、病変部に出血や脂肪などの蓄積がある場合には暗赤色になったり、淡明な結節として観察されることもあります。

細胞診
正常な肝細胞に類似した形態を示す異型性の少ない肝細胞が、単一の細胞群として採取されます。軽度の核の大小不同、細胞質好塩基性の増加、ニ核化した肝細胞の増加などがみられることがあります。さらに空胞化などの細胞質変性や、髄外造血を伴うこともあります。また、臨床病理学的には、ALPの軽度上昇をおこすことがあります。異型性に乏しい肝細胞が採取されてくるため、細胞診では腺腫や高分化型肝細胞癌との鑑別は困難です。

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病理組織
被膜を持たない結節性病変で、周囲の肝実質を軽度に圧迫します。病変内では肝細胞の数や大きさは増加しますが、小葉構造は維持されています。そのためグリソン鞘も観察されます。病変を構成する肝細胞は異型性が乏しく、核分裂像も見られません。
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予後・治療法

結節性過形成は良性病変ですので、臨床症状や肝機能障害、悪性腫瘍のような転移を起こすことはありません。

肝細胞腺腫  Hepatocellular adenoma

肝細胞腺腫は犬、牛、羊、猫、豚で起こります。通常は孤在性で2‐12㎝の球形病変を形成します。正常組織との境界は明瞭で、出血や脂肪蓄積の有無などによって正常な肝組織の色から暗赤色、黄褐色など様々な色を呈します。

細胞診
正常な肝細胞に類似した形態を示す異型性の少ない肝細胞が、単一の細胞群として採取されます。軽度の核の大小不同、胞質好塩基性の増加、ニ核化した肝細胞の増加などがみられることがあります。異型性に乏しい肝細胞が採取されてくるため、細胞診では過形成や高分化型肝細胞癌との鑑別は困難です。

病理組織
肝細胞腺腫は境界明瞭ですが、ほとんどの場合被膜は持ちません。病変内では2‐3個の高分化な肝細胞が索状に増殖します。小葉構造は消失し、グリソン鞘や門脈構造は認められません。腫瘍細胞の異型性は乏しく、正常な肝細胞に類似した形態をとりますが、わずかに大小不同が見られるかもしれません。
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予後
肝細胞腺腫は良性腫瘍ですので転移は起こしません。

肝細胞癌  Hepatocellular carcinoma

肝細胞癌は犬や猫、牛、羊、豚、馬で発生します。犬では4‐5歳から起こり始め、10歳で中央値となります。犬種や性別による傾向はみられません。猫では2‐20歳の幅で報告されており、中央値は12歳です。犬や猫での臨床症状は非特異的で、食欲不振、嘔吐、腹水、元気消失、衰弱が挙げられます。
肉眼的には巨大な結節状、またはび漫性の病変を形成します。通常は孤在性で、1つの肝葉で増殖しますが、複数の葉にまたがって増殖することもあります。腫瘍は通常いびつで多結節状を呈し、出血や壊死、肝細胞の空胞変性の有無によって色や質感は様々です。

細胞診
高分化型の肝細胞癌では異型性の少ない肝細胞が採取されるため、細胞診のみで正常肝組織、結節性過形成、肝細胞腺腫と区別することは困難です。
未分化な肝細胞癌の場合は、肝細胞に顕著な核の大小不同、N/C比の増加、3核以上の多核細胞などの強い異型性がみられることがあり、細胞診では胆管癌や転移性癌と判別することさえ、しばしば困難となることがあります。
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左:高分化型肝細胞癌
右:細胞診で強く肝細胞癌が疑われた症例

病理組織
肝細胞癌では小葉構造は消失し、細胞の分化度や増殖パターンによって組織学的に様々な形態をとります。高分化型の肝細胞癌では、10層以上の細胞の厚さ(時には20個の細胞の厚さ)からなる索状構造を形成しますが、腫瘍細胞は正常な肝細胞と類似しています。分化度の低い肝細胞癌では、腫瘍細胞に大小不同などの多形性が見られ、多核巨細胞(矢頭)が出現することもあります。このような低分化な肝細胞癌では腫瘍細胞の核分裂像(矢印)はよく観察されますが、高分化型の肝細胞癌では比較的稀です。

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予後
犬では肝臓内や付属リンパ節に広がることはありますが、遠隔転移は一般的ではないと考えられています。予後については様々な報告がありますが、比較的最近行われた調査では54症例の肝細胞癌を持つ犬のうち、4症例(約7.4%)に肝臓以外の転移が見られたとされています。転移部位は4症例のうち2症例は肺で、残りの2症例は付属リンパ節と大網でした。

猫の肝細胞癌の転移は犬より一般的と考えられています。転移率は28%(18症例中5症例)で、付属リンパ節(4症例)、肺(1症例)、脾臓(1症例)と報告されています。

胆管細胞癌/胆管癌  Cholangiocellular carcinoma/Cholangiocarcinoma/Biliary carcinoma

胆管細胞癌は犬猫で発生する腫瘍の1%以下の頻度で発生する比較的稀な腫瘍です。
犬の胆管由来腫瘍は良性より悪性が多く、胆管細胞癌発生時の年齢の中央値は11.4歳となっています。犬では肝細胞癌よりも発生頻度が低いのに対し、猫では肝臓原発の悪性腫瘍の中では最も発生頻度が高く、通常は9歳以上で発生します。病変は孤在性のこともありますが、犬や猫では多結節性の増殖巣を形成することが多いとされ、灰白色~黄褐色で中央に窪みが出来ていることもあります。

細胞診
肝細胞とは異なる形態の立方上皮様の胆管上皮が、密集した腺管様~シート状に採取されます。胆管上皮は比較的均一な円形核と狭小な淡青色の細胞質を有し、細胞異型がみられない場合もあります。細胞診では、胆管細胞癌か転移性癌かを明確に区別することはしばしば困難です。
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病理組織
胆管細胞癌は孤在性で巨大な腫瘤状病変または多結節性病変を形成します。高分化な胆管細胞癌では胆管上皮に類似した細胞が管状乳頭状構造を形成しながら増殖します。大型の嚢胞を形成する場合には胆管細胞嚢胞腺癌と呼ばれます。より分化度の低い腫瘍では胞巣状、島状、コード状に増殖し、扁平上皮への分化を示すこともあります。腫瘍辺縁では実質への浸潤性が見られます。
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予後

胆管細胞癌は浸潤性が強く、頻繁に転移を起こします。転移率は犬で60-88%、猫では78%とされており、転移する部位としてはリンパ節、肺、腹膜がより頻繁に見られますが、全身に播種することがある腫瘍です。

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参考文献
・World Health Organization International Histological Classification of Tumors of Domestic Animals, Washington, DC, Armed Forces Institute of Pathology, 1998
・Tumor in domestic animals, 5th ed, John Wiley & Sons, inc, 2017.
・Cowell RL, Valenciano AC. Cowell and Tyler’s Diagnostic Cytology and Hematology of the Dog and Cat. 5th ed. St. Louis. Mosby. 2019.

* 本腫瘍マニュアルは、主に上記の文献を参考にしていますが、IDEXXの病理診断医が日々の診断を行う際に用いるグレード評価などは他の文献等を参考にしています。