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犬猫の毛包腫瘍

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正常な毛包の構造

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漏斗部角化棘細胞腫 Infundibular keratinizing acanthoma

臨床情報
犬の皮膚に発生する毛包漏斗部上皮細胞由来の良性腫瘍です。犬で稀に見られます。犬での発生のピークは5~7歳です。ノルウェジアン・エルクハウンド、ラサアプソ、ペキニーズ、ヨークシャー・テリア、ジャーマン・シェパード・でリスクの上昇があると報告されています。頚部背側や体幹部の皮膚で多くみられますが、その他の部位にも発生します。発生年齢の中央値は7歳です。単発または多発生に発生し、直径0.5~4cmの結節性病変が形成されます。結節の中央には小さな孔状の凹みが見られることもあります。大きく表皮に開口する病巣では、皮角のような角状の角質が形成されていることもあります。完全切除によって治癒する病変です。
細胞診

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多量の角化物が採取されています。
角化物や正常の皮膚に類似した扁平上皮細胞が採取されます。角化物は扁平な多角形~類円形で、ライトギムザ染色では水色、青色または紫色に染色され、核は消失しています。扁平上皮細胞の多くはよく分化したもので、細胞質は角化物に似ていますが、中心に濃染する小型類円形核を有します。破綻すると角化物に対する異物反応が起こるため、好中球や類上皮マクロファージなどの炎症性細胞が多数認められることもあります。
(鑑別診断:毛包嚢胞、他の毛基質由来腫瘍)
病理組織
この腫瘍は、真皮または一部表層皮下にかけて形成される境界明瞭な結節性病変として存在します。結節は、基底細胞~漏斗部/峡部に類似した重層化した扁平上皮細胞で構成され、中央は層板状の角質を含む嚢胞が形成されます。嚢胞は表皮に開口していることが多く、角質は表層に向かって角状に形成されることもあります。嚢胞壁の周囲には、粘液性の線維性間質を伴って、類似した上皮細胞が複雑な網目状の構造そして角質層が中心に形成された小さな巣を形成しています。
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予後・治療法
完全切除で治癒します。

外毛根鞘腫 Tricolemmoma

臨床情報
毛包の外毛根鞘由来の良性の非常に稀な腫瘍です。病巣は頭頚部に発生することが多く、硬く境界明瞭な結節を形成し、大きさは直径約1~7cmです。発生年齢の平均は10歳です。
病理組織

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写真はHistological Classification of Epithleial and Melanocytic Tumors of the Skin of Domestic Animals(WHO)から抜粋
腫瘍は真皮を主座とし形成される境界明瞭な結節性の腫瘍です。腫瘍性の上皮細胞は毛根鞘上皮の特徴を持つ立方形~多角形で、島状、巣状、細い索状の構造を形成し増殖します。
予後・治療法
完全切除によって治癒します。

毛芽腫 Tricoblastoma

臨床情報
犬猫の皮膚に発生する毛芽細胞由来の良性腫瘍です。犬と猫どちらも比較的頻繁に起こり、犬では6~9歳での発生が多くなります。プードル、コッカー・スパニエル、雑種犬でリスクの上昇があると報告されています。性別による発生傾向の差はありません。肉眼的には、無毛皮膚に覆われ、硬い結節を含む、孤立性のドーム状またはポリープ状の病変として観察されます。一般的な大きさは直径1~2cmですが、非常に大型の腫瘤を形成することもあります。好発部位は頭頸部ですが、その他の部位にも起こります。
肉眼写真(腫瘍の割面)
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細胞診
image007基底細胞様細胞が密な集塊を形成しながら多数採取されます。これらの細胞は核クロマチンの豊富な小型類円形~卵円形核と狭小な細胞質を有しています。個々の細胞の形態は比較的類似しており、通常異型性はほとんど観察されません。細胞がばらばらになると、小型リンパ球や短紡錘形の非上皮性細胞のようにみえることもあります。
(鑑別診断:基底細胞癌、皮脂腺上皮腫、アポクリン腺癌など)
病理組織
真皮から皮下組織にかけて境界明瞭に結節が形成され、毛芽に類似する、毛芽細胞ないし胚細胞からなり、未発達の毛球や毛包・毛乳頭を形成するまでにとどまる基底細胞様の均一な大きさの上皮細胞が、コラーゲン性の間質を持ち、リボン状、索状そして胞巣状の様々な構造をとって増殖します。表皮との連続性はありません。腫瘍細胞は紡錐形になることもあります。
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左上:境界明瞭な結節 (弱拡)
右上:リボン状構造
左下:紡錘形細胞の増殖


予後・治療法
完全切除によって治癒する病変です。

毛包上皮腫Tricoepithelioma

臨床情報
犬では頻繁に見られる皮膚の腫瘍です。猫では稀です。バセットハウンド、ブルマスチフ、イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル、ゴールデンレトリバー、ゴードン・セッター、アイリッシュ・セッター、スタンダードプードル、でリスクの上昇があると報告されています。多くは5歳またはそれ以上の年齢で発生します。犬では体幹背側は病変が最も良く見られる部位です。猫では尾に発生する傾向があります。腫瘍は真皮から皮下組織にかけて発生し、2cm以下の小型の病変~しばしば15cm程の大型の病巣も形成します。表層はしばしば潰瘍を伴います。この腫瘍は嚢胞性に形成された場合、嚢胞の破裂によって周囲に広範囲な異物性炎が起こる事があります。
細胞診
image011角化物、さまざまな成熟段階の扁平上皮、そして基底細胞様細胞などが採取されます。扁平上皮には異型性はあまり認められません。下の写真では上部に青色に染色される角化物の集塊、下部に基底細胞様細胞が観察されます。
(鑑別診断:漏斗部角化棘細胞腫、毛母腫など)

病理組織
毛包上皮腫は毛包由来の良性腫瘍で、毛包下部に見られる3つの構造に分化を示します(毛母細胞、外毛根鞘、内毛根鞘)。良性腫瘍は、比較的疎な粘液性の線維性間質を持って、上皮細胞は浸潤性を認めない様々な大きさや形の島状または嚢胞状の構造を形成します。嚢胞内には頻繁に角化物を含んでいます。悪性毛包上皮腫は毛母細胞の特徴を持つ塩基性の強い細胞が多くなり、線維間質を伴って浸潤性に増殖します。(写真は良性腫瘍)
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予後・治療法
良性の毛包上皮腫は完全切除により治癒する腫瘍です。悪性毛包上皮腫は局所再発とリンパ節転移を起こすことがあります。

毛母腫 Pilomatoricoma
(同義語:石灰化上皮腫 Calcifying epithelioma, 毛根腫 Pilomatrixsoma)

臨床情報
毛母腫は毛基質や毛球の胚芽細胞から発生する腫瘍です。犬の全皮膚/皮下腫瘍のおよそ1%を占めます。猫では極めて稀です。犬での発生年齢の平均は6歳です。プードル、ケリー・ブルー・テリア、オールド・イングリッシュ・シープドッグ、ソフトコーテッド・ウィートン・テリア、エアデール・テリア、などでリスクの上昇があると報告されています。好発部位は肢端遠位そして体幹背側、特に臀部や肩に起こります。病巣は孤立性で、比較的硬く、境界明瞭なマスを形成します。腫瘤はドーム状からプラーク状で、大きさは直径1~10cmと様々です。良性の腫瘍は完全切除によって予後良好ですが、悪性腫瘍のいくつかは転移を起こします。
細胞診
毛包上皮腫と類似する所見が認められます。
病理組織
真皮~皮下組織に、様々な大きさの多嚢胞構造で構成される境界明瞭な不規則な形の腫瘤塊が形成されます。腫瘍細胞は基底様細胞(basaloid epithelial cell)及び陰影細胞(shadow cell)から構成され、重層化した基底様細胞が突然陰影細胞(写真*)に移行し、多量の角質が嚢胞内に形成されるのが特徴的です。陰影細胞はしばしば石灰化し、化生骨が形成されることもあります。嚢胞構造が壊れると角質や石灰化物質が結合組織に散布されて、肉芽腫性の炎症が起こることがあります。
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予後・治療法
良性の毛母腫は完全切除によって治癒します。悪性毛母腫は転移を起こすことがあり、骨、リンパ節、肺などの多様な臓器にみられます。成書や過去の報告(Vet pathol. 2010)そして弊社の経験上、高分化な形態(良性と十分考えられる形態)の症例において、ごく稀に転移を起こすことがあり、この腫瘍は、総論的な悪性所見の有無だけでは判断が難い腫瘍です。
 
<追加参考文献>
Malignant pilomatricoma in 3 dogs. Vet Pathol. 2010 Sep;47(5):937-43.

無断での転用/転載は禁止します。

参考文献
World Health Organization International Histological Classification of Tumors of Domestic Animals, Washington, DC, Armed Forces Institute of Pathology, 1998
Tumor in domestic animals, 4th ed, Ames, Iowa, Iowa State Press, 2002.
Tumor in domestic animals, 5th ed, John Wiley & Sons, inc, 2017.
・Withrow & MacEwen's Small Animal Clinical Oncology, Withrow J.S, et al: Elsevier; fifrth ed, Saunders-Elsevier, 2013
・Gross TL, et al: Skin diseases of the dog and cat. Clinical and histopathologic diagnosis, 2nd ed, Blackwell, 2005.
・Cowell RL, Valenciano AC. Cowell and Tyler’s Diagnostic Cytology and Hematology of the Dog and Cat. 4th ed. St. Louis. Mosby. 2013.
・Raskin RE, Meyer DJ. Atlas of Canine and Feline Cytology, 2nd ed. W.B. Saunders. Philadelphia. 2009.

* 本腫瘍マニュアルは、主に上記の文献を参考にしていますが、IDEXXの病理診断医が日々の診断を行う際に用いるグレード評価などは他の文献等を参考にしています。