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犬猫の皮脂腺腫瘍

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正常な皮脂腺の構造

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皮脂腺腫 Sebaceous adenoma
皮脂腺導管腺腫 Seboceous ductal adenoma
皮脂腺上皮腫 Seboceous epithelioma

これらの腫瘍はいずれも皮脂腺に分化を示す腫瘍であり、皮脂腺腫と皮脂腺導管腺腫は良性腫瘍、皮脂腺上皮腫は低グレードの悪性腫瘍に分類されます。
臨床情報
犬では一般的、猫では稀な腫瘍です。発症年齢のピークは犬で8~13歳、猫で7~13歳。好発犬種はイングリッシュ・コッカー・スパニエル、シベリアン・ハスキー、コッカプー、ウェストハイランド・ホワイト・テリア、ケアン・テリア、ダックスフント、プードル、シーズーなど。猫では品種による発生頻度の差はありません。また犬猫ともに性別による発生の差はありません。
発生部位:犬では頭部、猫では頭部や背~尾部に発生し、多発性に起こることもあります。腫瘤は外方向性に拡大しますが、同時に深部(真皮、皮下組織)方向へも浸潤性を示します。腫瘤部は脱毛し、色素沈着や二次感染により潰瘍化して見られることもあります。これらの疾患は外観から区別することはできません。
細胞診
皮脂腺腫:良く分化した皮脂腺細胞(小型の中心性類円形核と泡沫状の細胞質を有する)が塊状に採取されます。細胞診では皮脂腺腫と皮脂腺の過形成との鑑別はできません。
皮脂腺上皮腫:少数のよく分化した皮脂腺細胞(赤矢印)の周囲にN/C比の高い基底補助細胞(立方上皮:青矢印)が多数観察されます(青矢印)
皮脂腺導管腺腫:細胞診では上記2つと明確に判別することはできません。

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病理組織
皮脂腺腫は主に表皮-真皮の境界から真皮内、または皮下組織にわたって形成され、結合組織によって複数の小葉に区画されています。小葉は1-数層の小型で好塩基性の補助細胞が片縁に位置し、中心部は細胞質に多数の小型空胞を有する脂腺細胞で構成されています。
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皮脂腺上皮腫では、小型好塩基性の補助細胞が優勢で、少数の脂腺細胞が散見されるのみです。腫瘍細胞間でメラニン顆粒を有するメラノサイトが観察されることがあります。
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皮脂腺導管腺腫は、重層扁平上皮で構成された様々な大きさの導管の増殖を主体とし、少数の補助細胞と脂腺細胞も観察されます。
予後・治療法
皮脂腺腫と皮脂腺導管腺腫は良性腫瘍であり、完全切除により完治します。一方、皮脂腺上皮腫は低グレードの悪性腫瘍であり、切除部位に再発する可能性があります。稀ではありますが、頭部に発生した皮脂腺上皮腫が所属リンパ節(初期は下顎リンパ節)に転移することがあります。

皮脂腺癌  Sebaceous carcinoma

臨床情報
犬猫ともに一般的な腫瘍ではありません。発症年齢のピークは犬で9~13歳、猫で8~15歳。好発犬種はコッカー・スパニエル、ウェストハイランド・ホワイト・テリア、スコティッシュ・テリア、シベリアン・ハスキーなど・猫では品種による発生頻度の差はありません。また犬猫ともに性別による発生の差はありません。
発生部位:犬では頭部や頚部、猫では頭部や胸部、会陰部に発生が多く、外観は皮脂腺腫や皮脂腺上皮腫と類似しているため、肉眼所見のみでこれらを見分けることはできません。

細胞診
皮脂腺癌:多形性を示す脂腺上皮には、核の大小不同や明瞭な核小体などの強い核異型が観察され、有糸分裂像もよく観察されます。細胞質には微細な空胞が認められますが、このような所見からは皮脂腺への分化が示唆されます。
病理組織
皮脂腺癌では、腫瘍は血管結合組織によって様々な大きさの小葉に区画されています。腫瘍細胞は様々な量の空胞を細胞質内に含有し、核分裂像も様々な程度に観察されます。腫瘍は浸潤性に増殖し、稀にリンパ管浸潤が起こります。
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予後・治療法
急速に腫大し、局所浸潤性を示します。転移は稀ですが、リンパ行性に所属リンパ節に起こることがあります。遠隔転移の発生は稀です。治療としては、広範なマージンを確保した外科的切除が挙げられます。

マイボーム腺腫 Meibomian adenoma
マイボーム腺導管腺腫 Meibomian ductal adenoma
マイボーム腺上皮腫 Meibomian epithelioma

これらの腫瘍はいずれも、眼瞼内側に位置するマイボーム腺から生じる腫瘍です。マイボーム腺は皮脂腺が変化したものであり、腫瘍分類も皮脂腺腫瘍の分類に則しています。
臨床情報
犬では一般的、猫では稀な腫瘍です。犬では3~15歳(ピークは6~11歳)で発症します。好発犬種はゴードン・セッター、サモエド、スタンダード・プードル、シーズー、ラブラドール・レトリーバーなど。性別による発生の差はありません。
発生部位:眼瞼部内側に発生。茶/黒色もしくは暗赤色であり、周囲組織との境界は明瞭です。
細胞診
マイボーム腺は眼瞼部に位置する皮脂腺であり、細胞診所見は皮脂腺由来の良性腫瘍(皮脂腺腫、皮脂腺導管腺腫、皮脂腺上皮腫)と同じです。
病理組織
組織学的特徴は他の部位に発生する皮脂腺腫と同様です。
予後・治療法
緩徐に腫大します。十分なマージンを確保した外科的切除により完治します。不完全切除の場合(特に腫瘤が大型である場合)、切除部位に再発する可能性が考えられます。

マイボーム腺癌  Meibomian Carcinoma

本腫瘍はマイボーム腺の悪性腫瘍です。報告例は多くはなく、すべての動物種において稀な発生の悪性腫瘍です。
臨床情報
外観はマイボーム腺由来の良性腫瘍と同様であるため、これらを肉眼所見のみで区別することはできません。
細胞診
マイボーム腺は皮脂腺が変化したものであり、細胞診所見は皮脂腺癌と同様です。
病理組織
組織学的特徴は他の部位に発生する皮脂腺癌と同様です。
予後・治療法
局所侵襲性を示します。所属リンパ節にリンパ行性転移を示します。

肛門周囲腺腫 Hepatoid gland adenoma
肛門周囲腺上皮腫 Hepatoid gland epithelioma

肛門周囲腺(肝様腺:これらの細胞は肝細胞に形態が似ているため、このように呼ばれることがある)は、皮脂腺が変化したものです。犬科動物にのみ見られ、肛門周囲、尾の背側および腹側、雄の包皮、雌の乳腺部、後肢後部、胸部背側の正中線状に存在します。時にこれら以外の場所にも見られることがあります。
肛門周囲腺腫(肝様腺腫)は良性腫瘍であり、肛門周囲腺上皮腫(肝様腺上皮腫)は低グレードの悪性腫瘍に分類されます。
臨床情報
発症年齢のピークは8~13歳ですが、これより若齢(時に2歳齢でも)や老齢の犬でも発症することがあります。好発犬種はシベリアン・ハスキー、サモエド、ペキニーズ、コッカプー、コッカー・スパニエルなどです。発生には性差がみられます;未去勢雄ではリスクが高く(発生例の57%)、一方、未避妊雌ではリスクは低くなります(発生例の9%)。このような点でも、本腫瘍がアンドロゲン依存性腫瘍であることが分かります。
発生部位:肛門周囲に孤立性/多発性の皮内腫瘤として発生します。大きさは0.5~5cm、多くは潰瘍化します。潰瘍化していない部位では、腫瘤を覆う表皮は薄く、脱毛してみられます。肛門周囲以外に発生する場合、腫瘤は外方向性、もしくは深部方向に拡大しますが、潰瘍化は一般的ではありません。肛門周囲以外では、尾の背側および腹側、包皮での発生が多いとされています。

細胞診
肛門周囲腺腫:良く分化した肝様細胞(赤矢印:微細顆な桃青色に染まる広い細胞質、小さな核小体を有する類円形核;形態的に肝細胞に似る)がシート状集塊として採取されます。周囲には、補助細胞(青矢印:好塩基性に染色される、N/C比の高い小型の立方上皮)が少数混在して見られます。これら補助細胞には、多形成は観察されません。肛門周囲腺上皮腫では、上記に比べ補助細胞が増加して観察されます。
※細胞診では、肛門周囲腺の過形成病変、よく分化したタイプの肛門周囲腺癌との鑑別は困難であり、臨床的な挙動が異なる場合は、病理組織学的な評価が必要となります。
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病理組織
肛門周囲腺腫は、真皮や皮下組織に形成され、線維性被膜で覆われた境界明瞭な腫瘍です。腫瘍内では、肝細胞様の腫瘍細胞が島状またはコード状の小葉を多数形成しています。この腫瘍細胞は多角形で、豊富な好酸性細胞質と、中心に位置する大型楕円形核を有しています。小葉の辺縁では、通常一層の補助細胞が観察されます。
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肛門周囲腺上皮腫では、腫瘍細胞の主体を補助細胞が占め、少数の肝様細胞が散見されます。
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予後・治療法
肛門周囲腺腫は、アンドロゲンの影響により、緩徐に腫大します。未去勢雄では、腫瘍の外科的切除時に、同時に去勢術を行うことが推奨されます。切除後の再発は一般的ではありませんが、切除部近傍には時に、新たな腫瘍(再発ではなく)が発生することがあります。肛門周囲腺腫では、腫瘍に隣接した肛門周囲腺部が過形成を示すことがあり、腫瘍本体の切除後、この過形成部を基に新たな腫瘍が発生すると考えられています。

肛門周囲腺癌  Perianal gland carcinoma

発生の稀な悪性腫瘍です。
臨床情報
発症年齢は4~15歳(発生のピークは8~12歳)です。
 
好発犬種はシベリアン・ハスキー、シーズーなど。未去勢雄は発症リスクが高く(発生例の69%)、一方、未避妊雌(発生例の5%)や避妊雌(発生例の9%)ではリスクは低いとされます。
発生部位:肛門周囲,包皮および尾部の皮膚にみられます。外観は肛門腺由来の良性腫瘍と変わらず、これらを肉眼所見のみで区別することはできません。
細胞診
image17肛門周囲腺癌では、異型性を伴う幼若な上皮性細胞が観察されます。
病理組織
肛門周囲腺癌では、腫瘍細胞は小葉構造を形成せず、組織の構造が不明瞭になります。腫瘍を構成する細胞は1個の細胞タイプの場合や、補助細胞や肝様細胞が混在することもあります。これらの細胞では、多形性や多数の核分裂像が観察されます。悪性を示すもっとも重要な所見は、周囲組織への浸潤像や脈管浸潤像です。
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予後・治療法
肛門周囲腺癌の成長速度は様々です。転移はリンパ行性に仙骨・内腸骨リンパ節へ起こり、次いで肺や全身組織へと広がります。転移の指標となる所見は明らかではありません。

無断での転用/転載は禁止します。

参考文献
World Health Organization International Histological Classification of Tumors of Domestic Animals, Washington, DC, Armed Forces Institute of Pathology, 1998
Tumor in domestic animals, 4th ed, Ames, Iowa, Iowa State Press, 2002.
Tumor in domestic animals, 5th ed, John Wiley & Sons, inc, 2017.
・Withrow & MacEwen's Small Animal Clinical Oncology, Withrow J.S, et al: Elsevier; fifrth ed, Saunders-Elsevier, 2013
・Gross TL, et al: Skin diseases of the dog and cat. Clinical and histopathologic diagnosis, 2nd ed, Blackwell, 2005.
・Cowell RL, Valenciano AC. Cowell and Tyler’s Diagnostic Cytology and Hematology of the Dog and Cat. 4th ed. St. Louis. Mosby. 2013.
・Raskin RE, Meyer DJ. Atlas of Canine and Feline Cytology, 2nd ed. W.B. Saunders. Philadelphia. 2009.

* 本腫瘍マニュアルは、主に上記の文献を参考にしていますが、IDEXXの病理診断医が日々の診断を行う際に用いるグレード評価などは他の文献等を参考にしています。