乳腺癌は、未避妊の雌犬では最も発生の多い悪性腫瘍で、腫瘍発生の危険因子には、年齢、ホルモン暴露、品種が含まれます。年齢では中~高齢での発生が多く、7-8歳で発生率が増加し、11-13歳まで上昇します。悪性腫瘍は9-11歳、良性腫瘍は7-9歳での発生が多いです。性ホルモンへの暴露と関連があるため、最初の発情より前に避妊をした場合には乳腺腫瘍の発生を軽減することができます。品種では純血種の犬での発生が多く、小型犬種ではチワワ、ダックスフント、マルチーズ、コッカースパニエルが挙げられています。大型犬種の中では、イングリッシュスプリンガースパニエル、イングリッシュセッター、ブリタニ―スパニエル、ジャーマンシェパード、ポインター、ドーベルマン、ボクサーが挙げられています。しかし、これら犬種については、地域や研究によっても差異があるようです。
乳腺腫瘍は、通常、腫瘤状病変として発見され、単発性でも多発性にも発生します。性ホルモン暴露との関連があるため、多数の腫瘤を形成することも珍しくはありません。また、多発した場合、個々の腫瘤で組織タイプが異なったり良性/悪性が混在することもよくあります。急な病変の成長、潰瘍、支配リンパ節の腫大、削痩、呼吸困難などの症状は、悪性腫瘍を示唆することが多くあります。雌での発生がほとんどですが、雄でも稀に発生することがあります。雄で発生する場合、エストロジェン分泌セルトリ細胞腫のようなホルモン異常やホルモン治療に伴ってみられることが多いです。
乳腺腫瘍は、通常、腫瘤状病変として発見され、単発性でも多発性にも発生します。性ホルモン暴露との関連があるため、多数の腫瘤を形成することも珍しくはありません。また、多発した場合、個々の腫瘤で組織タイプが異なったり良性/悪性が混在することもよくあります。急な病変の成長、潰瘍、支配リンパ節の腫大、削痩、呼吸困難などの症状は、悪性腫瘍を示唆することが多くあります。雌での発生がほとんどですが、雄でも稀に発生することがあります。雄で発生する場合、エストロジェン分泌セルトリ細胞腫のようなホルモン異常やホルモン治療に伴ってみられることが多いです。
犬の乳腺部腫瘍における細胞診の考え方
犬の乳腺部腫瘍に対して細胞診を行う一番の目的は、病変が乳腺由来の腫瘍(つまり乳腺腫瘍)であることを確認し、乳腺に発生する乳腺組織以外を起源とする腫瘍(例えば、骨外性骨肉腫や肥満細胞腫など)を否定することにあります。少し意外かもしれませんが、犬の乳腺腫瘍の悪性・良性の判定は、個々の腫瘍細胞の形態変化(異型性の観察)による評価のみでは不十分であり、病変部での腫瘍細胞の増殖形態や浸潤性(腫瘍細胞の広がり)を併せて評価することが必須となります。細胞診では前者(形態変化、異型性)の評価は十分に行うことは出来ても、後者(腫瘍細胞の広がり)を評価することができません。そのため乳腺腫瘍の悪性・良性を最終的に判定するには、増殖形態の評価が可能な病理組織検査が必須となる訳です。このような検査の特色から、犬の乳腺腫瘍では時に「細胞診では中程度の異型性に乳腺分泌上皮が観察され、悪性の可能性を含めた乳腺腫瘍を疑っていたけれども、病理組織検査では良性であった」ということが起こります(逆のパターンも然り)。一般的に、犬の乳腺腫瘍の悪性良性判定に対する細胞診の診断精度はおおよそ66%~79%1)と言われています。犬の乳腺部腫瘍に対して細胞診を行う際には、これら病変判定に関する基本事項を理解し、上手に臨床活用することが勧められます。
犬の良性乳腺腫瘍の細胞診
犬の良性乳腺腫瘍から採取された細胞診標本中には、血液もしくは乳汁成分を背景として、塊状の乳腺分泌上皮が観察されます(写真1)。これらの周囲には、時にリポフスチン貪食マクロファージが出現します。観察される乳腺分泌上皮は、核クロマチン結節に若干乏しい類円形核と好塩基性に染色される狭小な細胞質を有します。個々の細胞は比較的均一な形態を呈しており、核の大小不同などの核異型が軽度に観察されるのみです。また細胞間結合性も密に観察されます。このような細胞診所見からは、乳腺の良性腫瘍を考えますが、前述の理由から(犬の乳腺部腫瘍における細胞診の考え方を参照のこと)、悪性良性の明確な判別には病理組織検査が必要となります。また他の病変と同様、細胞診では良性腫瘍と過形成との明確な区別は困難であるため、最終的な病変の細胞診断学的評価は「乳腺の過形成や乳腺腫などの乳腺由来良性病変を疑う」となります。
また針生検を行った際、液体成分として採取された場合は、その形態評価に注意が必要です。腺房や乳管の拡大を伴う乳腺病変(泌乳期にもみられる変化)では、乳汁を含む腺房(もしくは管腔)内に乳腺分泌上皮の脱落が起こります。これら液体中に浮遊する乳腺分泌上皮には核の大小不同やNC比のばらつきなどの異型性が見られ、時に細胞質内には空胞を含んで観察されます(写真2)。また個々の細胞には核の大小不同やNC比のばらつきなど、中程度〜時に比較的強い異型性が観察されることがあり、異型性を伴う異常な細胞として捉えられてしまうことがあります。このような場合、細胞診による病変の判定はより困難となります。
犬の混合型/複合型の乳腺腫瘍の細胞診
犬の混合型/複合型の乳腺腫瘍の細胞診では、塊状に採取される乳腺分泌上皮細胞に加え、多数の筋上皮細胞が孤在散在性ないし集簇状に観察されることが特徴となります(写真3)。これらの筋上皮細胞は、核クロマチン結節に若干乏しい類円形核と淡好塩基性に染色される短紡錘形〜卵円形の細胞質を有してみられます(写真3)。また筋上皮細胞の周囲には、好酸性に染色される細胞間基質の産生がしばしば観察されます(写真3)。このタイプの犬の乳腺腫瘍の多くは良性病変ですが、良性病変であれば写真3で観察されるように、これら乳腺分泌上皮や筋上皮細胞に異型性はほとんど観察されません。また時に異型性に乏しい骨芽細胞が混在してみられることや髄外造血を伴って観察されることもあります(この理由については病理組織の説明を参照)。一方、観察される乳腺分泌上皮や筋上皮細胞、また混在してみられる骨芽細胞に異型性が観察される場合には、乳腺の悪性腫瘍や骨外性骨肉腫の可能性も考えられ、より詳細な評価には病理組織検査による病変全体像の把握が必要となります。
犬の悪性乳腺腫瘍の細胞診
犬の悪性乳腺腫瘍から採取された細胞診標本中には、血液もしくは変性壊死成分を背景に、多数の上皮性細胞成分が塊状ないし孤在散在性に採取されます(写真4)。観察される上皮性細胞は、核クロマチン結節に乏しい幼若な類円形核と好塩基性に染色される細胞質を有しており、分化傾向に乏しい形態を呈しています。個々の細胞には核の大小不同やNC比のばらつきなどの異型性が観察されます。細胞間結合性も乏しく、細胞同士の接合性は低下してみられることもあります。細胞診でこのように、異型性を伴う幼若な上皮性細胞が単一の細胞集団として観察される際には乳腺の悪性腫瘍を疑います。また、時にこれら乳腺分泌上皮の周囲には、好中球などの炎症細胞の出現を伴ってみられることがありますが、炎症細胞の出現が「炎症性乳癌」の評価につながる訳ではありません。炎症性乳癌はあくまでも臨床所見(乳腺の腫脹と熱感、発赤、皮膚の小結節など)に基づいて下される診断名であり、病変部細胞診で炎症所見が見られるか否かは必須所見ではありません。臨床的に「炎症性乳癌」が疑われる際の細胞診では、より未分化な上皮性細胞が観察されることが多く経験されます。
(写真1)
犬、異型性の少ない乳腺分泌上皮。
(写真2)
犬、液体貯留を伴う乳腺部腫瘤より採取された乳腺分泌上皮。核の大小不同やN/C比のばらつき等がみられます。
(写真3)
犬、混合型または複合型の乳腺腫瘍を考えます。
(写真4)
犬、異型性を伴う乳腺分泌上皮の集塊がみられます。異常分裂像がみられます(矢印)。
犬の乳腺部腫瘍に対して細胞診を行う一番の目的は、病変が乳腺由来の腫瘍(つまり乳腺腫瘍)であることを確認し、乳腺に発生する乳腺組織以外を起源とする腫瘍(例えば、骨外性骨肉腫や肥満細胞腫など)を否定することにあります。少し意外かもしれませんが、犬の乳腺腫瘍の悪性・良性の判定は、個々の腫瘍細胞の形態変化(異型性の観察)による評価のみでは不十分であり、病変部での腫瘍細胞の増殖形態や浸潤性(腫瘍細胞の広がり)を併せて評価することが必須となります。細胞診では前者(形態変化、異型性)の評価は十分に行うことは出来ても、後者(腫瘍細胞の広がり)を評価することができません。そのため乳腺腫瘍の悪性・良性を最終的に判定するには、増殖形態の評価が可能な病理組織検査が必須となる訳です。このような検査の特色から、犬の乳腺腫瘍では時に「細胞診では中程度の異型性に乳腺分泌上皮が観察され、悪性の可能性を含めた乳腺腫瘍を疑っていたけれども、病理組織検査では良性であった」ということが起こります(逆のパターンも然り)。一般的に、犬の乳腺腫瘍の悪性良性判定に対する細胞診の診断精度はおおよそ66%~79%1)と言われています。犬の乳腺部腫瘍に対して細胞診を行う際には、これら病変判定に関する基本事項を理解し、上手に臨床活用することが勧められます。
犬の良性乳腺腫瘍の細胞診
犬の良性乳腺腫瘍から採取された細胞診標本中には、血液もしくは乳汁成分を背景として、塊状の乳腺分泌上皮が観察されます(写真1)。これらの周囲には、時にリポフスチン貪食マクロファージが出現します。観察される乳腺分泌上皮は、核クロマチン結節に若干乏しい類円形核と好塩基性に染色される狭小な細胞質を有します。個々の細胞は比較的均一な形態を呈しており、核の大小不同などの核異型が軽度に観察されるのみです。また細胞間結合性も密に観察されます。このような細胞診所見からは、乳腺の良性腫瘍を考えますが、前述の理由から(犬の乳腺部腫瘍における細胞診の考え方を参照のこと)、悪性良性の明確な判別には病理組織検査が必要となります。また他の病変と同様、細胞診では良性腫瘍と過形成との明確な区別は困難であるため、最終的な病変の細胞診断学的評価は「乳腺の過形成や乳腺腫などの乳腺由来良性病変を疑う」となります。
また針生検を行った際、液体成分として採取された場合は、その形態評価に注意が必要です。腺房や乳管の拡大を伴う乳腺病変(泌乳期にもみられる変化)では、乳汁を含む腺房(もしくは管腔)内に乳腺分泌上皮の脱落が起こります。これら液体中に浮遊する乳腺分泌上皮には核の大小不同やNC比のばらつきなどの異型性が見られ、時に細胞質内には空胞を含んで観察されます(写真2)。また個々の細胞には核の大小不同やNC比のばらつきなど、中程度〜時に比較的強い異型性が観察されることがあり、異型性を伴う異常な細胞として捉えられてしまうことがあります。このような場合、細胞診による病変の判定はより困難となります。
犬の混合型/複合型の乳腺腫瘍の細胞診
犬の混合型/複合型の乳腺腫瘍の細胞診では、塊状に採取される乳腺分泌上皮細胞に加え、多数の筋上皮細胞が孤在散在性ないし集簇状に観察されることが特徴となります(写真3)。これらの筋上皮細胞は、核クロマチン結節に若干乏しい類円形核と淡好塩基性に染色される短紡錘形〜卵円形の細胞質を有してみられます(写真3)。また筋上皮細胞の周囲には、好酸性に染色される細胞間基質の産生がしばしば観察されます(写真3)。このタイプの犬の乳腺腫瘍の多くは良性病変ですが、良性病変であれば写真3で観察されるように、これら乳腺分泌上皮や筋上皮細胞に異型性はほとんど観察されません。また時に異型性に乏しい骨芽細胞が混在してみられることや髄外造血を伴って観察されることもあります(この理由については病理組織の説明を参照)。一方、観察される乳腺分泌上皮や筋上皮細胞、また混在してみられる骨芽細胞に異型性が観察される場合には、乳腺の悪性腫瘍や骨外性骨肉腫の可能性も考えられ、より詳細な評価には病理組織検査による病変全体像の把握が必要となります。
犬の悪性乳腺腫瘍の細胞診
犬の悪性乳腺腫瘍から採取された細胞診標本中には、血液もしくは変性壊死成分を背景に、多数の上皮性細胞成分が塊状ないし孤在散在性に採取されます(写真4)。観察される上皮性細胞は、核クロマチン結節に乏しい幼若な類円形核と好塩基性に染色される細胞質を有しており、分化傾向に乏しい形態を呈しています。個々の細胞には核の大小不同やNC比のばらつきなどの異型性が観察されます。細胞間結合性も乏しく、細胞同士の接合性は低下してみられることもあります。細胞診でこのように、異型性を伴う幼若な上皮性細胞が単一の細胞集団として観察される際には乳腺の悪性腫瘍を疑います。また、時にこれら乳腺分泌上皮の周囲には、好中球などの炎症細胞の出現を伴ってみられることがありますが、炎症細胞の出現が「炎症性乳癌」の評価につながる訳ではありません。炎症性乳癌はあくまでも臨床所見(乳腺の腫脹と熱感、発赤、皮膚の小結節など)に基づいて下される診断名であり、病変部細胞診で炎症所見が見られるか否かは必須所見ではありません。臨床的に「炎症性乳癌」が疑われる際の細胞診では、より未分化な上皮性細胞が観察されることが多く経験されます。
(写真1)
犬、異型性の少ない乳腺分泌上皮。
(写真2)
犬、液体貯留を伴う乳腺部腫瘤より採取された乳腺分泌上皮。核の大小不同やN/C比のばらつき等がみられます。
(写真3)
犬、混合型または複合型の乳腺腫瘍を考えます。
(写真4)
犬、異型性を伴う乳腺分泌上皮の集塊がみられます。異常分裂像がみられます(矢印)。
基本的に、乳腺腫瘍の組織評価をする際は下記のWHO分類のいずれに該当するかを考えながら評価しています。その他、周囲への浸潤性、核分裂像、壊死の有無、リンパ管浸潤の有無を合わせて評価します。外科切除された場合には、辺縁や底部の切除端を精査しマージンの評価をします。
犬の乳腺腫瘍のWHO分類
現時点で発表されているWHO分類は以下の表のとおりです。日本語名は、日本獣医病理学専門家協会が提案した腫瘍診断名に基づいています。乳腺腫瘍は、単純に良性/悪性だけでなく、増殖している細胞の種類、増殖パターン、間質の種類などによって様々なタイプに分類されています。下記の分類の中には、非腫瘍性の病変(過形成/異形成)も含まれています。悪性の指標には、腫瘍のタイプ、顕著な核や細胞の多形性、核分裂像、腫瘍壊死巣、周辺への浸潤性、リンパ管浸潤、リンパ節転移などが含まれます。
現時点で発表されているWHO分類は以下の表のとおりです。日本語名は、日本獣医病理学専門家協会が提案した腫瘍診断名に基づいています。乳腺腫瘍は、単純に良性/悪性だけでなく、増殖している細胞の種類、増殖パターン、間質の種類などによって様々なタイプに分類されています。下記の分類の中には、非腫瘍性の病変(過形成/異形成)も含まれています。悪性の指標には、腫瘍のタイプ、顕著な核や細胞の多形性、核分裂像、腫瘍壊死巣、周辺への浸潤性、リンパ管浸潤、リンパ節転移などが含まれます。
1. | Malignant Tumors | 悪性腫瘍 | ||||
1.1. | Noninfiltrating (in situ) carcinoma | 非浸潤性癌 (上皮内癌) | ||||
1.2. | Complex carcinoma | 複合癌 | ||||
1.3. | Simple carcinoma | 単純癌 | ||||
1.3.1. | Tubulopapillary carcinoma | 管状乳頭状癌 | ||||
1.3.2. | Solid carcinoma | 充実癌 | ||||
1.3.3. | Anaplastic carcinoma | 退形成癌 | ||||
1.4. | Special types of carcinomas | 癌の特殊型 | ||||
1.4.1. | Spindle cell carcinoma | 紡錘形細胞癌 | ||||
1.4.2. | Squamous cell carcinoma | 扁平上皮癌 | ||||
1.4.3. | Mucinous carcinoma | 粘液癌 | ||||
1.4.4. | Lipid-rich carcinoma | 脂質産生癌 | ||||
1.5. | Sarcoma | 肉腫 | ||||
1.5.1. | Fibrosarcoma | 線維肉腫 | ||||
1.5.2. | Osteosarcoma | 骨肉腫 | ||||
1.5.3. | Other sarcomas | その他の肉腫 | ||||
1.6. | Carcinosarcoma | 癌肉腫 | ||||
1.7. | Carcinoma or sarcoma in benign tumor | 良性腫瘍内の癌あるいは肉腫 | ||||
2. | Benign Tumors | 良性腫瘍 | ||||
2.1. | Adenoma | 腺腫 | ||||
2.1.1. | Simple adenoma | 単純腺腫 | ||||
2.1.2. | Complex adenoma | 複合腺腫 | ||||
2.1.3. | Basaloid adenoma | 基底細胞様腺腫 | ||||
2.2. | Fibroadenoma | 線維腺腫 | ||||
2.2.1. | Low-cellularity fibroadenoma | 細胞密度の低い線維腺腫 | ||||
2.2.2. | High-cellularity fibroadenoma | 細胞密度の高い線維腺腫 | ||||
2.3. | Benign mixed tumor | 良性混合腫瘍 | ||||
2.4. | Duct papilloma | 乳管乳頭腫 | ||||
3. | Unclassified Tumors | 未分類の腫瘍 | ||||
4. | Mammary Hyperplasias/Dysplasias | 乳腺過形成/異形成 | ||||
4.1. | Ductal hyperplasia | 乳管過形成 | ||||
4.2. | Lobular hyperplasia | 小葉過形成 | ||||
4.2.1. | Epithelial hyperplasia | 上皮過形成 | ||||
4.2.2. | Adenosis | 乳腺症 | ||||
4.3. | Cysts | 嚢胞 | ||||
4.4. | Duct ectasia | 乳管拡張 | ||||
4.5. | Focal fibrosis (fibrosclerosis) | 巣状線維症(線維性硬化症) | ||||
4.6. | Gynecomastia | 雌性化乳房 |
このWHO分類は1999年に発表されていますが、これ以降、いくつかの新しい組織学的なタイプが見つかってきたことから、2011年にGoldschmidtらによって新しい分類法2)が提唱されました。病理医の中には以下の分類を使用していることもありますので、ご紹介します。
1 | Malignant epithelial neoplasm | 5 | Benign neoplasms | ||||
Carcinoma-in situ | Adenoma-simple | ||||||
Carcinoma-simple | Intraductal papillary adenoma (duct papilloma) | ||||||
a | Tubular | Ductal adenoma (basaloid adenoma) | |||||
b | Tubulopapillary | With squamous differentiation | |||||
c | Cystic-papillary | Fibroadenoma | |||||
d | Cribriform | Myoepithelioma | |||||
Carcinoma-micropapillary invasive | Complex adenoma | ||||||
Carcinoma-solid | Benign mixed tumor | ||||||
Comedocarcinoma | 6 | Hyperplasia/Dysplasia | |||||
Carcinoma-anaplastic | Duct ectasia | ||||||
Carcinoma arising in a complex adenoma/mixed tumor | Lobular hyperplasia (adenosis) | ||||||
Carcinoma-complex type | Regular | ||||||
Carcinoma and malignant myoepithelioma | With secretory activity | ||||||
Carcinoma-mixed type | With fibrosis | ||||||
Ductal carcinoma | With atypia | ||||||
Intraductal papillary carcinoma | Epitheliosis | ||||||
2 | Malignant epithelial neoplasm – special types | Papillomatosis | |||||
Squamous cell carcinoma | Fibroadenomatous change | ||||||
Adenosquamous carcinoma | Gynecomastia | ||||||
Mucinous carcinoma | 7 | Neoplasm of the nipple | |||||
Lipid-rich (secretory) carcinoma | Adenoma | ||||||
Spindle cell carcinoma | Carcinoma | ||||||
Malignant myoepithelioma | Carcinoma with epidermal infiltration (Paget-like disease) | ||||||
Squamous cell carcinoma-spindle cell variant | 8 | Hyperplasia/Dysplasia of the nipple | |||||
Carcinoma-spindle cell variant | Melanosis of the skin of the nipple | ||||||
Inflammatory carcinoma | |||||||
3 | Malignant mesenchymal neoplasm – sarcomas | ||||||
Osteosarcoma | |||||||
Chondrosarcoma | |||||||
Fibrosarcoma | |||||||
Hemangiosarcoma | |||||||
Other sarcomas | |||||||
4 | Carcinosarcoma – Malignant mixed mammary tumor |
犬の複合型/混合型の乳腺腫瘍~筋上皮細胞myoepitheliumとは~
乳腺腺房では、分泌腺上皮細胞の周囲、腺上皮細胞と基底膜の間に筋上皮細胞が存在しています。腺上皮細胞が増殖するタイプを単純型(写真1)に分類するのに対し、筋上皮細胞の増殖を伴うタイプは複合型(写真2)、混合型に分類します。犬ではこの複合型、混合型の腫瘍が比較的頻繁に発生します。混合型の乳腺腫瘍では、間質に骨や軟骨組織の化生を伴います(写真3)。この化生骨周囲は骨芽細胞が縁取っていますし、化生骨内に造血細胞や脂肪細胞が見られる骨髄化生を起こすこともあります。細胞診で骨芽細胞や造血細胞として観察されるのはこのためです。
また、筋上皮細胞は腫瘍浸潤の抑制因子とも捉えられており、悪性腫瘍の場合、単純癌よりも複合癌などの筋上皮細胞増殖を伴うタイプの方が、挙動が良い傾向にあります。これは、筋上皮細胞がTIMP1など種々の反血管新生、反浸潤性因子を産生するためと考えられています3)。
炎症性乳癌 inflammatory carcinomaとは
2010年の分類には含まれていますが、炎症性乳癌は臨床的な診断名です。突然の発症、浮腫、発赤、温感のある乳腺組織として観察され、腫瘤を形成することもしないこともあります。組織学的な証明には真皮リンパ管内の癌細胞の塞栓がみられることが必要で、炎症性細胞浸潤の有無は必須ではありません。表層のリンパ管の閉塞によって支配領域に浮腫を起こすため、上述のような臨床症状を示します。
(写真1)
単純腺腫 Adenoma-simple
(写真2)
複合腺腫 Complex adenoma
(写真3)
良性混合腫瘍 Benign mixed tumor
(写真4)
単純癌(充実癌) Carcinoma-solid
この様な増殖形態を示すタイプは悪性がほとんどです。
乳腺腺房では、分泌腺上皮細胞の周囲、腺上皮細胞と基底膜の間に筋上皮細胞が存在しています。腺上皮細胞が増殖するタイプを単純型(写真1)に分類するのに対し、筋上皮細胞の増殖を伴うタイプは複合型(写真2)、混合型に分類します。犬ではこの複合型、混合型の腫瘍が比較的頻繁に発生します。混合型の乳腺腫瘍では、間質に骨や軟骨組織の化生を伴います(写真3)。この化生骨周囲は骨芽細胞が縁取っていますし、化生骨内に造血細胞や脂肪細胞が見られる骨髄化生を起こすこともあります。細胞診で骨芽細胞や造血細胞として観察されるのはこのためです。
また、筋上皮細胞は腫瘍浸潤の抑制因子とも捉えられており、悪性腫瘍の場合、単純癌よりも複合癌などの筋上皮細胞増殖を伴うタイプの方が、挙動が良い傾向にあります。これは、筋上皮細胞がTIMP1など種々の反血管新生、反浸潤性因子を産生するためと考えられています3)。
炎症性乳癌 inflammatory carcinomaとは
2010年の分類には含まれていますが、炎症性乳癌は臨床的な診断名です。突然の発症、浮腫、発赤、温感のある乳腺組織として観察され、腫瘤を形成することもしないこともあります。組織学的な証明には真皮リンパ管内の癌細胞の塞栓がみられることが必要で、炎症性細胞浸潤の有無は必須ではありません。表層のリンパ管の閉塞によって支配領域に浮腫を起こすため、上述のような臨床症状を示します。
(写真1)
単純腺腫 Adenoma-simple
(写真2)
複合腺腫 Complex adenoma
(写真3)
良性混合腫瘍 Benign mixed tumor
(写真4)
単純癌(充実癌) Carcinoma-solid
この様な増殖形態を示すタイプは悪性がほとんどです。
(写真5)
単純癌(退形成癌) Carcinoma-anaplastic(右)、単純腺腫 Ademoma-simple(左)
写真右半分に、強い細胞異型と浸潤性を示す腫瘍細胞が見られます。この未分化なタイプの悪性腫瘍は挙動の悪いことがほとんどです。写真左に示すように、基に比較的分化度の高い腺上皮細胞で構成される良性腫瘍がありましたが、その周囲の間質に悪性腫瘍が浸潤しています。
単純癌(退形成癌) Carcinoma-anaplastic(右)、単純腺腫 Ademoma-simple(左)
写真右半分に、強い細胞異型と浸潤性を示す腫瘍細胞が見られます。この未分化なタイプの悪性腫瘍は挙動の悪いことがほとんどです。写真左に示すように、基に比較的分化度の高い腺上皮細胞で構成される良性腫瘍がありましたが、その周囲の間質に悪性腫瘍が浸潤しています。
組織学的な予後因子
悪性の上皮性腫瘍についてはいくつかの要素を基にグレード分類がされています(See: 犬の組織グレード)。組織学的に予後と関連していると考えられている因子は、この組織グレード、脈管浸潤の有無、周辺間質への浸潤性の有無、リンパ節転移の有無、組織タイプです。組織グレードの中でWHO分類にもあるとおり、乳腺腫瘍には非上皮系悪性腫瘍(肉腫)も含まれますが、こちらは悪性であってもこのグレード分類はできません。また、犬の乳腺腫瘍では腫瘍が多発することがありますが、その場合には最もグレードの高い腫瘍で予後を検討します。
悪性の上皮性腫瘍についてはいくつかの要素を基にグレード分類がされています(See: 犬の組織グレード)。組織学的に予後と関連していると考えられている因子は、この組織グレード、脈管浸潤の有無、周辺間質への浸潤性の有無、リンパ節転移の有無、組織タイプです。組織グレードの中でWHO分類にもあるとおり、乳腺腫瘍には非上皮系悪性腫瘍(肉腫)も含まれますが、こちらは悪性であってもこのグレード分類はできません。また、犬の乳腺腫瘍では腫瘍が多発することがありますが、その場合には最もグレードの高い腫瘍で予後を検討します。
臨床的に、予後と関連する因子として報告の多いものは、腫瘍のサイズ、リンパ節転移の有無、ステージ(WHOステージ)です。
- 腫瘍のサイズ:40cc(直径約3.4cm)より大きい腫瘍は予後が悪い; 直径3cmより小さい腫瘍は予後が良い; 5cm以上の腫瘍で予後が顕著に悪いなどの報告があります。
- リンパ節転移:多くの報告でリンパ節転移のあるものでは予後が悪いとされています。また、転移の大きさとしては、2mm以上の転移巣を形成していた場合には予後が悪いが、2mm以下の転移巣では転移がない場合と比べてそれほど差異はないと報告されています3)。
- WHOステージ:このステージングには、腫瘍のサイズやリンパ節転移も含まれるため、ステージの高いものは予後が悪くなります。
動物の乳腺腫瘍の治療は外科的切除による治療がほとんどです。腫瘍の悪性度や転移などの状況によっては、化学療法など他の治療が検討されています。
この腫瘍は性ホルモンへの暴露と関連があるため、早期の避妊は乳腺癌発生のリスクを下げると考えられています。
この腫瘍は性ホルモンへの暴露と関連があるため、早期の避妊は乳腺癌発生のリスクを下げると考えられています。
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参考文献
1. Solano-Gallego L and Masserdotti C. Reproductive System. In Raskin RE and Meyer DJ. Canine and Feline Cytology, ed3, 2015, ELSEVIER.
2. Goldschmidt M, Peña L, Rasotto R et al. Classification and grading of canine mammry tumors. Vet Pathol. 2011;48(1):117-131.
3. Pena L, Gama A, Goldschmidt M et al. Canine mammary tumors: a review and consensus of standard guidelines on epithelial and myoepithelial phenotype markers, HER2, and hormone receptor assessment using immunohistochemistry. Vet Pathol. 2014;51(1)127-145
参考文献
1. Solano-Gallego L and Masserdotti C. Reproductive System. In Raskin RE and Meyer DJ. Canine and Feline Cytology, ed3, 2015, ELSEVIER.
2. Goldschmidt M, Peña L, Rasotto R et al. Classification and grading of canine mammry tumors. Vet Pathol. 2011;48(1):117-131.
3. Pena L, Gama A, Goldschmidt M et al. Canine mammary tumors: a review and consensus of standard guidelines on epithelial and myoepithelial phenotype markers, HER2, and hormone receptor assessment using immunohistochemistry. Vet Pathol. 2014;51(1)127-145