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犬猫の肥満細胞腫瘍

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犬の肥満細胞腫 Canine mast cell tumor

臨床情報
犬の皮膚ではしばしば発生する腫瘍です。単発性または多中心性に起こります。多発性に起こる割合は10-15%であり、同時あるいは経時的に発生します。罹患犬の平均年齢は8歳です。好発犬として報告されているのは、ボクサー、ボストンテリア、ブルテリア、ブルマスチフ、スタッフォードシャ―テリア、フォックステリア、イングリッシュブルドック、ダックスフント、ラブラドールおよびゴールデンレトリーバー、ビーグル、パグ、チャイニーズシャーペイ、ローデシアンリッジバック、ワイマラナーです。
細胞診
多数の腫瘍性肥満細胞が採取されます。肥満細胞はN/C比の比較的低い独立円形細胞で、中心性類円形核を有し、細胞質内に好塩基性微細顆粒を含有しています。顆粒が多いものでは核がほとんど染色されず、細胞の中央部が薄くみえることもあります(写真1)。ディフクイックなどの簡易染色では顆粒があまり染色されないこともあるため、注意が必要です。しばしば好酸球や線維芽細胞の浸潤が認められます(写真2)。多形性の強いものでは、細胞や核の大小不同、顆粒の量のばらつき、複数核などの所見が認められます(写真3)。

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(写真1)
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(写真2)

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(写真3)

病理組織
この腫瘍は、真皮~皮下組織、あるいは皮下組織のみに被膜を有さない腫瘍として形成され(写真4)、類円形~多角形の細胞のシート状増殖として観察されます。これらの細胞は、1個の円形の核を有し、通常のHE染色で薄いグレーがかった青に染まる顆粒を細胞質に有しています(写真5)。この顆粒は、トルイジンブルー染色で紫色に染まる、異染性を示します。細胞の分化度が低くなると、この顆粒が見えづらくなることがあります。好酸球浸潤が頻繁に観察されます。腫瘍内での膠原線維融解(collagenolysis)、線維増生、水腫も比較的よくみられる変化です。

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(写真1)
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(写真2)

最も一般的でまた長年使用されているグレード法は、1984年にPatnaikらによって提唱された方法です1)。組織学的にこのグレードを決める際の主な基準は、以下のようになっています。
グレード 組織学的特徴 1500日以上の生存期間
グレード1 (毛包間)真皮に限局
よく分化し、比較的豊富な細胞質内顆粒を持った肥満細胞
腫瘍による壊死や水腫は最小限
93%
グレード2 真皮深層まで、皮下組織に広がることもある
分化度がやや低い腫瘍細胞で、細胞質内顆粒は様々、核分裂像は0-2/高倍率1視野
比較的広範な壊死や水腫、間質の変性
44%
グレード3 皮下組織まで深く、広く浸潤する
分化度の低い腫瘍細胞で、細胞質内顆粒は見づらく頻繁な核分裂像(3-6/高倍率1視野)、著しい核異型も示す
広範な壊死や水腫、間質の変性
6%
このグレード法は基本的に真皮から発生した腫瘍の範囲を基準に含んでいるため、皮下組織のみに発生した肥満細胞腫には用いることができません。
近年、Kiupelらによって細胞形態と予後判定を基にして分類が再評価され、新しいグレード法が提唱されました2)。この分類は低グレード、高グレードの2段階で表記されます。以下に示す特徴のうち1つでも当てはまると、この分類で高グレードと評価されます。
✓ ≧7個/高倍率10視野の核分裂像
✓ ≧3個/高倍率10視野の多核(核が3個以上)細胞
✓ ≧3個/高倍率10視野の奇怪な(bizarre)核
✓ ≧10%の巨核細胞
この分類法によると、高グレードの肥満細胞腫では他の部位での発生かつ/又は転移までの期間は著しく短く、また生存期間も短い(低グレードが生存期間の中央値2年以上に対して、高グレードは4カ月以下)と報告されています。

予後・治療法
全ての犬の皮膚肥満細胞腫は、潜在悪性と考えるべき腫瘍です。この腫瘍は組織学的なグレードによってその予後が違い、これは上述のとおりです。
グレードの他に予後が悪いとされている要因には、
✓ 会陰部、陰嚢、包皮、指、粘膜皮膚境界部、鼻鏡に発生した場合
✓ 発見時に臨床症状を呈していた場合
✓ 腫瘍の大きさが3cm以上であった場合
また、核分裂像、Ki67、AgNORなどの細胞増殖を示す因子、KITタンパクの発現パターンも、予後と相関すると報告されています。
グレード分類や予後に関しては、病理症例集16でより詳細に説明していますので、参考にしてください。
追加参考文献
1) Patnaik AK et al. Canine cutaneous mast cell tumor: morphologic grading and survival time in 83 dogs. Vet Pathol. 21:469-474(1984).
2) Kiupel M et al. Proposal of a 2-tier histologic grading system for canine cutaneous mast cell tumors to more accurately predict biological behavior. Vet Pathol. 48:147-155(2011).

猫の肥満細胞腫 Feline mast cell tumor

臨床情報
猫の皮膚腫瘍の8-15%を占めています。やや硬い、無毛の丘疹状~結節状の病変として観察され、多くは数mm~2cmです。孤在性あるいは多発性に発生します。ある報告では頭部と脚での発生が多く、また他の報告では頭部、近位の大腿、尾の背側が多いと報告されています。発生年齢の平均は9-11歳で、4歳以下では稀です。シャム猫でやや発生が多いと言われています。
細胞診
多数の腫瘍性肥満細胞が観察されます。細胞の形態は犬のものに類似していますが、猫では犬よりも顆粒が細かく、細胞の大きさはおおむね均一であることが多いです(写真1)。また、犬とは異なり、好酸球や線維芽細胞が浸潤することはあまりありません。簡易染色では、顆粒の染色性がライトギムザのものとやや異なります(写真2)。

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(写真1)
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(写真2)

病理組織
真皮内、あるいは一部皮下組織に及ぶ、被包されていない腫瘍組織であり(写真3)、比較的均一な大きさの類円形の細胞のシート状増殖で構成されます。細胞診同様に、組織でも犬の肥満細胞よりも顆粒が細かく見えます(写真4)。好酸球浸潤が目立たないことが多く、逆に小型リンパ球の浸潤を伴うことがあります。細胞の形態によって、高分化型(Well-differentiated)、非定型的又は低顆粒性(組織球性とも呼ばれる、Atypical, poorly grahulated, or histiocytic)、多形型(Pleomorphic)と分けられています。犬ほど好酸球浸潤を伴わないことも良くあります。高分化型では、写真のように比較的均一な大きさで異型性の低い細胞で構成されています。非定型的肥満細胞腫はやや大型の肥満細胞で構成され、細胞質内の顆粒はほとんど見えません。多形型では、細胞の大きさが様々で、細胞質内顆粒は少量です。大型核や多核の腫瘍細胞も見られます。

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(写真3)
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(写真4)

予後・治療法
多くの猫の肥満細胞腫は、切除によって治癒する良性病変と考えられています。同時あるいは時期を置いて多発性に見られることもありますが、転移はほとんどありません。非定型型の肥満細胞腫は切除後も再発することがあります。多くの報告で、形態的特徴と悪性挙動については関連がないと考えられていますが、核分裂像に関しては予後との関連が示唆されています。1)2) また、稀に、皮膚に多発する肥満細胞腫が、内臓型(全身型)の肥満細胞腫とともにみられることがあります。
追加参考文献
1) Sabattini S et al. Prognostic significance of kit receptor tyrosine kinase dysregulation in feline cutaneous mast cell tumors. Vet Pathol. 50:797-805(2013).
2) Sabattini S et al. Prognostic value of histologic and immunohistochemical heatures in feline cutaneous mast cell tumor. Vet Pathol.47:643-653(2010).

無断での転用/転載は禁止します。

参考文献
World Health Organization International Histological Classification of Tumors of Domestic Animals, Washington, DC, Armed Forces Institute of Pathology, 1998
Tumor in domestic animals, 4th ed, Ames, Iowa, Iowa State Press, 2002.
Tumor in domestic animals, 5th ed, John Wiley & Sons, inc, 2017.
・Withrow & MacEwen's Small Animal Clinical Oncology, Withrow J.S, et al: Elsevier; fifrth ed, Saunders-Elsevier, 2013
・Gross TL, et al: Skin diseases of the dog and cat. Clinical and histopathologic diagnosis, 2nd ed, Blackwell, 2005.
・Cowell RL, Valenciano AC. Cowell and Tyler’s Diagnostic Cytology and Hematology of the Dog and Cat. 4th ed. St. Louis. Mosby. 2013.
・Raskin RE, Meyer DJ. Atlas of Canine and Feline Cytology, 2nd ed. W.B. Saunders. Philadelphia. 2009.

* 本腫瘍マニュアルは、主に上記の文献を参考にしていますが、IDEXXの病理診断医が日々の診断を行う際に用いるグレード評価などは他の文献等を参考にしています。