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犬猫の腫瘍 皮膚:猫の軟部組織肉腫

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臨床情報および一般的概念

軟部組織肉腫(Soft Tissue Sarcoma: STS)は、間葉系腫瘍の総称で、体の様々な部位に発生します。猫の皮膚および皮下腫瘍の約7%を占めます。ほとんどは孤発性で、中~高齢で起きやすいといわれています。
 

犬でSTSに含まれる腫瘍は、類似の組織学的特徴と生物学的挙動を示しますが(犬の軟部組織肉腫をご参照ください)、猫では、原因や由来に加えて挙動が異なる軟部組織肉腫として、高齢猫の孤発性の線維肉腫、注射部位肉腫、ウイルス誘導性肉腫、悪性末梢神経鞘腫が挙げられています。

細胞診

細胞診では、これらの軟部組織肉腫は紡錘形細胞の増殖として観察されます。しかし残念ながら細胞診では増殖形態を評価できないため、個々の腫瘍を区別することはできず、軟部組織肉腫とそれ以外の非上皮性悪性腫瘍も区別できません。また、反応性の線維芽細胞は非腫瘍性であるにもかかわらずときおり強い異型性を伴うため、慢性炎症と紡錘形細胞腫瘍の区別は非常に困難です。さらに、高分化な非上皮性悪性腫瘍は細胞が採取されにくくなる傾向があり、その場合は細胞数が少なく細胞異型にも乏しいため、評価が難しくなります。
したがって、細胞診のみで軟部組織肉腫を診断するのは難しいということをまず認識し、そのうえで発生部位や臨床経過などを加味して、総合的に考える必要があります。
 

軟部組織肉腫の針生検標本では、(非上皮性細胞であるにもかかわらず)細胞が比較的多く採取される傾向があります。採取される非上皮性細胞は核クロマチン結節に乏しい類円形~楕円形核と紡錘形ないし不定形の細胞輪郭がやや不明瞭な好塩基性細胞質を有しています。異型性はさまざまで、悪性末梢神経鞘腫では異型性の少ない細胞が多数採取される傾向がある一方、注射部位肉腫では強い異型性を伴うケースが多いなど、一定ではありません。非上皮性細胞の異型性が強くみられていても、好中球やマクロファージなど他の炎症性細胞とともに出現している場合には、まずは反応性線維芽細胞の可能性を考える必要があります。また、注射部位肉腫の場合には、(1)非上皮性細胞が強い異型性を伴い、(2)炎症性細胞が同時に採取され、(3)粘性のある液体とともに採取されるため細胞が方向性をもって配列する、以上のような例が多いと報告されています。
 

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アメリカンショートヘアー、13歳齢、尾根部腫瘤。紡錘形細胞が多数採取されていますが、異型性としては反応性線維芽細胞の範疇を超えるものではありません。この病変は病理組織検査で軟部組織肉腫と診断されました。
 

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アメリカンショートヘアー、13歳齢、背部腫瘤(上記とは別の症例)。採取されている非上皮性細胞は少なく、標本上でまばらに認められるのみです。しかしながら細胞異型は強く、大型核を有するものが目立ち、またときおり多核巨細胞が認められました。この病変は病理組織検査で軟部組織肉腫と診断されました。

高齢猫の孤発性の線維肉腫 Solitary fibrosarcoma in older cats

最も一般的なタイプの線維肉腫で、一般的に、成猫~高齢猫(平均9.2歳または中央値10.5歳)で発生します。真皮または皮下組織から発生します。ほとんどが孤発性です。全身どこからでも発生しますが、一般的には、皮下の病変は体幹や四肢から、真皮の病変は指や耳介から発生します。好発品種や性差は知られていません。肉眼的には境界明瞭であったり小さいこともありますが、浸潤性が強いことが多く、巨大となったり、不整な形であったりもします。被膜は通常ありません。割面は灰色/白色で、光沢があります。
 

病理組織
通常は紡錘形の腫瘍細胞が、交錯配列、もしくは杉綾模様の配列を取ります。膠原線維の産生量は様々です。分化度の高い腫瘍細胞は、細胞質が狭く、核も比較的均一な細長いものから卵円形で、核小体は目立たず、核分裂像はあまり見られません。より未分化な腫瘍細胞では、顕著な細胞や核の多形性があり、卵円形、多角形、多核巨細胞が認められます。核も大型の類円形から卵円形で、明瞭な核小体を持ちます。多核巨細胞の出現は、犬よりも猫の線維肉腫では特徴的所見です。核分裂像は様々ですが、より侵襲性の強い腫瘍では増加します。時に腫瘤辺縁にはリンパ球集簇巣が見られ、好酸球を混じることもあります。
低倍像では境界明瞭のようにみえても、皮下に形成されたものでは皮筋より下方へ広がります。一部線維性被膜があっても、腫瘍は木の根のように筋膜などに沿って浸潤性に広がります(病理医によっては“樹枝状に広がる”や“触手/舌を伸ばす”、“指状の突起”などとも表現します)。この強い浸潤性のため、完全切除は難しくなり、再発に繋がります。
 

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予後・治療法
浸潤性が強いため、頻繁に再発を繰り返します。転移はあまり一般的ではありません。治療の第一選択は外科的切除ですが、浸潤性が強いので、かなり広いフリーマージンを確保する必要があります。広範囲切除が困難な場合には、術後に放射線治療を併用することで、再発までの期間の延長や長期的管理の改善につながると言われています。

ウイルス誘発性肉腫 Virus-induced sarcoma

FeSV(猫肉腫ウイルス、Feline Sarcoma virus)と呼ばれる、FeLV(猫白血病ウイルス、Feline leukemia virus)の変異ウイルスにより誘発される多発性の肉腫です。猫の線維肉腫のうち、2%のみと稀です。FeSVは腫瘍原性を持ちますが、このウイルス自身は増殖能を欠くため、増殖にはFeLVの共存が必要です。通常5歳以下で、平均3歳と若齢で発生し、数ヶ月齢で起こることもあります。局所浸潤性があり、肺などへの転移も起こります。

注射部位肉腫(ワクチン関連肉腫) Injection-site sarcoma (vaccine-associated sarcoma)

狂犬病ワクチンやFeLVワクチンの接種後に起こるため、ワクチン後肉腫またはワクチン関連肉腫と呼ばれていましたが、マイクロチップ挿入部位や薬剤注射部位の肉腫も報告されており、注射部位肉腫と大きくまとめられるようになってきています。アジュバントを含むワクチンは、接種部位での反応性変化が特に強く起こり、肉腫が発生しやすいと言われていますが、明確なエビデンスは得られておらず、アジュバントのないワクチンであれば安全と言い切ることはできません。現在は、ワクチン後の炎症反応や免疫反応に際して、線維芽細胞や筋線維芽細胞が活発に増殖し、そこから腫瘍化につながると考えられています。そのため、猫では類似の疾患として、外傷や慢性ぶどう膜炎が引き金となって起こる眼球内肉腫も知られています。ワクチン関連肉腫の腫瘍発生には、FeLVやFeSVのウイルス自体は関わっていません。
注射部位肉腫は非常に侵襲性が強いため、再発を繰り返します。結節性病変から、木の根のように筋膜などの構造に沿って浸潤性に広がるため、原発巣からやや離れた部位に再発病変が形成されることもあります。3歳齢と若いこともありますが、平均・中央値とも年齢は約8歳で、通常の線維肉腫よりも少し若いです。性差はありません。頚部、胸部、腰部、側腹部、四肢といったワクチン接種部位に発生します。典型例では、皮下または骨格筋内に形成されます。肉眼的には境界明瞭で、硬い白色腫瘤として認められます。典型例では腫瘤中央は壊死して空洞化し、漿液または粘稠性の液体を貯留します。
 

病理組織
注射部位肉腫の多くは線維肉腫ですが、悪性線維性組織球腫(多形肉腫)、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫などの他の肉腫も起こります。組織学的には、ワクチンなどの過去の注射との関連性の有無を断言することはしばしば困難です。しかし、注射部位肉腫ではより未分化なことが多く、細胞の大きさや形は様々で、核の多形性が強く、多核巨細胞も多数混在します。20個以上の核を持つ多核巨細胞が出現することもあります。腫瘤辺縁ではリンパ球やマクロファージが主体の炎症がよく見られます。稀に、ワクチンアジュバントと思われる青灰色の物質を貪食しているマクロファージの集塊が認められることもあります。
また、細胞診や小型組織では、注射部位肉腫なのか、ワクチン後の反応性の炎症なのか、区別することは非常に困難です。肉芽組織中の線維芽細胞は、しばしば多形性に富み、未分化で、腫瘍細胞に類似することがあるからです。そのため、確定診断には切除生検が有用ですが、腫瘍化した領域が限られている場合には明確な区別に至らないこともあります。
 

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予後・治療法
ワクチン接種部位の腫瘤が、3ヶ月以上存在したり、直径2cm以上の大きさであったり、ワクチン投与1ヶ月以降も増大し続ける場合には、組織生検の実施が推奨されています。非常に浸潤性が強いため、高率で再発し、1~2年の間に外科的切除を繰り返すことになります。そのため、根治的な治療を目指すには、かなり広いフリーマージンを確保した外科的切除と放射線治療といった、積極的治療が必要です。術後の化学療法の併用でも、再発までの期間や生存期間の延長が報告されています。転移率は初期には低いものの、時間の経過とともに増加し、所属リンパ節や縦隔、肺などへの転移が報告されています。

悪性末梢神経鞘腫 Malignant peripheral nerve sheath tumor

末梢神経の腫瘍は、シュワン細胞腫や神経線維腫、神経周膜腫などがありますが、通常のHE標本では鑑別が困難であるため、末梢神経鞘腫と総称されます。これまでは良性・悪性に分けられていましたが、組織学的な区別が明瞭ではないことが多く、最新の成書では、組織学的には単純に末梢神経鞘腫と診断するに留められ、この中で臨床的に明らかな悪性挙動(つまり短い生存期間、再発や転移)を示す高悪性度タイプも存在することが示されています。
この腫瘍は、脳神経や脊髄の神経根、腕神経叢、腰仙骨神経叢、そして皮膚、皮下、筋内、粘膜など、全身どこからでも発生します。猫ではあまり一般的な腫瘍ではありませんが、頭部、頚部、四肢に多いと言われています。一般的には中~高齢動物に起こります。腫瘍の増大は比較的緩徐ですが、サイズは0.5cmから10~12cmと様々です。硬性または軟性で、肉眼では境界明瞭のようにみえても、線維肉腫と同様に、被膜はなく、周囲組織へ浸潤性に広がります。通常は白色~灰色で、時に割面を入れると膨隆します。
 

病理組織
紡錘形~捻れた卵円形の腫瘍細胞が、束状、柵状、渦状に交錯して増殖します。Antoni A型は、細胞質の豊富な紡錘形細胞が束状に平行または柵状に配列する組織タイプで、核の柵状配列(観兵式配列)が特徴であり、核の柵状配列が並列する間隙に相当する好酸性部分(ベロケイ小体)が明瞭に認められることがあります。Antoni B型は、線維状~粘液状基質が豊富で、細胞質の乏しい紡錘形~星芒状の腫瘍細胞がまばらに分布して、疎な網状構造を取る組織タイプです。これら組織タイプは1つの腫瘍の中で混在します。猫ではAntoni B型が一般的ですが、他の動物では稀なAntoni A型もしばしば見られます。多数の神経束に腫瘍が及ぶと、多結節状を呈します。より悪性度の高い腫瘍では、観兵式配列は不明瞭となり、より密に集簇します。核は、卵円形や楕円形で、中等度の多形性を示します。核分裂像は様々ですが、通常は少ない~中等度です。リンパ球や肥満細胞がよく散見されます。腫瘤辺縁で圧迫された腫瘍細胞が偽被膜となり、肉眼的に境界明瞭のようにみえることがあります。この偽被膜によって、しばしば腫瘍のマージンが分かりづらく、不完全切除に繋がります。
 

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予後・治療法
肉眼では境界明瞭のようにみえても、線維肉腫と同様に、被膜はなく、周囲組織へ浸潤性に広がります。猫で転移したという報告はありませんが、線維肉腫と同じく、切除マージンが狭いと局所再発を起こすことが多いです。治療は外科的切除が一般的で、その他の治療法は詳しく知られていません。

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